「くし切りの玉ねぎっていいよね。形が残ってるから食べるの楽しくて」
「わかる。大きく切ると具材感あって豪快だし、小さく切ると炒めたとき嵩が減って助かるね」
「ふふ、『嵩が減る』っていう表現、やっぱり知的な人って感じする。今あんまり聞かなくなったから。目上の人たちと話すときには必要だけどね」
「あぁ、たしかに。同年代の人に対してはほとんど使わないね。言う前に『通じないかも』って思っちゃう。でもそれが通じてるCちゃんは知的」
「ありがと」
ものの1時間かそこらで、3~4人前の鶏や野菜はお腹に入ってしまった。
テーブルには、わずかにスープの残った金縁の皿と、ミニフランスが2個だけ。
二人ともいい歳した大人、学生時代のようにはたくさん食べられなくなったけど、それでも並々ならぬ食欲があることはわかった。
ちぎったパンをスープに浸して、贅を味わい尽くす。
「ごちそうさまでした。美味しかったぁ」
「お粗末さまでした」
「ふつうの家庭料理より時間はかかるけど、そのぶん手が込んでるし、味がすごく複雑なの。混ざるんじゃなくて層になってるみたいな。『だしが効いてるね』『まろやかだね』じゃない。そこが和食とは違うかも。これがフライパンで作れるのはすごい」
「いやぁ、今夜これにして良かったね。工程多いけど難しくはないし、あとは段取りが分かればスイスイ行くよ。鶏とぶどうをワインで煮るってシンプルだけど、見た目も味もちょっとハイカラで。余所行きっていうかね。万人受けする分かりやすい味じゃないから、食べてもらうまでは心配してたんだ。気に入ってくれて嬉しいよ」
◇
サッと洗い物を済ませて、しばし落ち着いてみる。
彼女がお茶を淹れるそばで、ふと時計に目をやると帰るまでに小一時間。
さっきのこと、やっぱり気になるから声を掛けるだけ掛けておくか。
あの様子で何もありませんでした……そんなはずはないし。
♪上海ベイベ (Remastered 2015) / CHARA
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