とろ火でじっくり煮ていく、弱火よりもさらに細く。そうするとぶどうが美味しくなるんだ。
不意にCちゃんが自室へ向かう。どうしたのかな、と思いながらも特に声を掛けずにいた。
数分して戻ってきた彼女は目を腫らし、心なしか頬も紅潮しているように見えた。
部屋で泣いたんだろうか。僕はまた何かしでかしたんだろうか?
何も言えないまま、ただフライパンの様子を見ていた。
「そろそろ外していいかな。出来上がりです」
「じゃあ私お皿盛る。そこの棚にオーバルのやつあるから取ってくれる?」
「はいよ。あ、肉が大きいけど、ナイフある? なければ今ひと口大に切っちゃうけど」
「ナイフとフォーク買ってあるから。ついでにあっちの抽斗から取ってくれる?」
会話がぎこちなくて、彼女もきっとそれを感じていて。
それでも、きれいな柄に金色の縁取りのある皿が今夜の料理に似合っていることが救いだった。
パン屋さんで買ったミニフランスどうしようか、と訊いたら、袋ごとテーブルに置いちゃっていいと言うのでそうした。
仕上げに、茹でたブロッコリーを散らして完成。
料理も食器も飲み物も、ぜんぶ揃って「いただきます」。
まずはCちゃんに食べてもらって感想を聞きたくて、僕は手を止めていた。
フォークを持った左手が鶏肉を口に運んで、少し遅れてスープも含む。
どうだろう、口に合うといいんだけど。
彼女の顔がパッと明るくなって「わぁ、とっても美味しい。ぶどうも一緒にもう一切れ」と言いながら再び口にする。
「鶏がね、もも肉なのにしっとり柔らかくて。それでいて独特の旨味がちゃんとある。オリーブとワインの香りが優しいね。塩気もちょうどいい」
ああ、よかった。喜んでもらえて。
「お肉とぶどうって相性いいんだね。酸味がほとんどなくてとにかく甘い。口の中で混ざる味を楽しむ日本人にも合ってると思う。皮の色もきれい、鷹の爪とかブロッコリーと合わせたときに彩り豊かだね」
この人の視点というか着眼点というか、食べて何を感じるかっていう所が明晰ですごく参考になるし、こういうふうに言ってもらえるのは提案した者としてもやっぱり嬉しい。
耳に心地よい彼女の食リポを楽しんで、いよいよ僕も食べ始める。
まずはブロッコリーとキノコから。
唯一味の染みてないブロッコリーにスープをかけて……うん、うまい。
マッシュルームはどうだろ……おぉ、ググッと来る旨味だ。ブラウンは白よりも野生味が強い。これは彼女にも薦めないと。
「Cちゃん。マッシュルームも食べてごらん」
「うん。今日のは茶色だね。味って違うの?」
「生で食べると一番よく分かるけど、白いのよりもワイルドな味だよ。煮ても食感が変わりにくい」
「そうなんだ。ちょっと行ってみよう」彼女はそう言いながらマッシュルームをパクッ。
「ん~! 確かにワイルドだわ。野山に生えてそう。歯ざわりがぽくぽくするのもいいね。そっか、こうやってマッシュルームを楽しめばいいんだ」
「マッシュルームってシメジとかマイタケに隠れちゃうけど、味も食感もいいでしょ。どんどん使ってあげて」
「そうする。可愛い振りしてこの子、ゲット・ワイルドだね」
「それ、あみんと TM NETWORK が混ざってるし(笑)」
「へへ、バレたか(笑)」
そんなゆるい会話をしながら、楽しい時間は過ぎていく。
少し持ち直してきたのかもしれない。気になるけど、今はこのままで。
♪renga / 菅野よう子
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