あんたが死んでから20年になろうとしているが
そっちの世界はどうだね?
住みやすいかい?
まあ、こっちの世界に比べて随分住みやすいだろうがね。
あんたは本当にやりたいことをやりたいようにやりたいだけやったね。
もちろんいい意味でなく悪い意味でだよ。
その意味では100点満点をやりたいくらいだ。
まあ、俺としてはあんたほど軽蔑に値する人はもう一人を除いてはいないがね。
それにしても随分と好き勝手やったじゃないか。
あんたの好きなものは飯と酒と金なんだろ?
あんたは家に何をした?
金は稼いではいたな。
あんたのような人間の屑でもとってくれる会社があったからね。
野球も上手くやったようだね。
厳しいことで有名なとある学校の野球部から逃げなかったらしいからね。
ただ、昭和という時代もあって、そこで壊れたかな?
あなたは一応は社会人として表面上は上手くやっていた。表面上はね。
その表面を取り繕うのに家の者がどれだけ苦悩し、泣いてきたかわかるか?
まあ、分からないと思う。というより、あなたにはそもそも理解できる頭がない。
俺が小学校1年生の時に、誕生日を迎えた人に先生が肩車をしてくれた
俺はねその時に泣き出してしまったんだよ
先生は驚いたそうだ
そして先生は母さんにこう言ったそうだ
俺は父親の愛情が足りないと
そして母さんはあなたとかなり言い争ったそうだ
高2の時。俺があまりに苦しい胸のうちを母さんに話したことがあった
その時のあなたの態度はどうだった?覚えているかよ?忘れたわけではないだろう?
何と言った?
こう言ったよな?
飯作れ。
そうだったな?
お前と言わせてもらおうか
お前なあ、お前は親か?
人間か?
はたまた獣か?
もしくはそれ以下か?
お前は確かに子供を望んだのかもしれない
だが、子供を生むことと育てることは別のはずだ
お前にとって息子というものは単に快楽の末の副産物だったということなのか?
ただ単にロボットみたいに言うことを聞いていれば良い存在なのか?
それで妻を息子を従わせて
満足だったかよ?
お前の恐怖政治のせいで人生を棒に降った者もいるんだぞ?
お前はそのことに対して何の責任を取った?
何の責任も取らずに、やりたいことをやってさっさと向こうに行ったんだよな?
これが何を意味するか分かるか?
家の者がお前に対して言いたいことを言う、今までの恨み辛みをぶつける、リベンジの機会が永久に失われたということなんだぞ。
しかもだ
息子達にとってはだ
お前の父親としての愛や考え、そして父性というものをな、獲得する機会というものをだ
将来に渡って失ったということになるんだぞ
それがどれほどの意味を持つものであるものか、本当にお前には分かるのか?
分かるのなら、説明してみろよ?
さあ、ほら
...結局、お前がやったことの数々は人間としての行為では全くない。
言うならば、こん畜生としての行為だ。
兄さんが言っていたよな?
お前は社会人としては満点だが、人間としては零点だ。
泣きながらお前にこうも訴えていたよな
お前が本当の意味でのこん畜生なら、俺はお前にこんなことを言わない。とな
どうだろうな?
どういう意味だろう?
お前に分かるか?
教えてやろう。
一言で言うと、どんなにひどい父親でも兄さんはお前のことを父親と思っていたということだ。
最後の最後までお前に期待していたということだ
それはもちろん俺も同じだ
母さんはお前と連れ添った期間が長い分、なおのことだったろう
どのような理由があれ、お前には期待していたということだ
その期待をお前はあっさり病死という形で裏切った
その時のはかない望みを粉々に打ち砕かれたときの絶望というものを、お前は本当に分かるのか?
まあいい
これは俺が向こうに行ってからたっぷり聞かせてもらうことにしよう
残念だが、俺もお前がかかっていただろう病にかかり、もう先は決して永くはない。
俺はお前とは違い、死ぬ時はどうやら一人になりそうだ
それに比べてな、お前は幸せだったと思うよ
なんだかんだでなあ、親父の葬式には絶対出ないと言っていた、あの兄貴がお前の葬式に出たんだぞ
どう思ったよ?
彼岸の人となった今、お前は何をどう思う?
お前の本当に望んでいたものとは何だ?
100坪を超える大きな家が、本当にお前の夢だったのか?
そうではないだろう
まあ、こうだろうなというものの見当は大体ついている
そのことも含めて教えてくれよな
何度聞いたか分からないが言わせてくれ
大学の頃は高名な野球選手だったそうじゃないか
ということは、少なくとも運動はうんと出来ていたということだよな?
俺はね貴方の運動の才能は受け継いだかもしれないが、努力をしなかったために、運動の出来ない人になってしまったんだ。
それを貴方だったらもったいないと感じるかもしれない
貴方のことだ
俺を一人前にするためにあらゆる手をつくすだろう
でもちょっと待ってくれ
欲張りすぎてはいけない
あわてる乞食は貰いが少ないというだろう?
だからな、俺はね貴方に対してお願いする時はまずこう言うよ
貴方が生きているうちにして欲しかったこと、そして貴方に対する全ての思いを込めて
キャッチボール教えてくれよなって
安っぽい感想で恐縮ですが、感動しました。
そして、共感しました。
私の場合は祖母です。今も生きています。
何をしても感謝はないし、誰かが辛そうにしていても常に自分が一番で、自分が優先。
辛くて殺してやりたくなる時もあるけれど、結局肉親には強く当たれなくて、ほとぼりが冷めたらまた優しくしてしまう。
でも心の奥底では、「なんで若くて可能性に溢れた私が、90近いばあさんの奴隷(自分を奴隷だと思えば、奴隷にしては扱いが良いと感じられるので)としてこき使われなきゃならないんだ」と思っているのも事実。
でもやっぱりいいです期待してしまって。愛してしまって。
家族って難しいですね。
ちなみにうちには父はいません。
私もキャッチボール、できるんならしてみたかったですねえ。
男の子なら尚更、お父さんとキャッチボール、したいですよね。
どうかあなたの残りの人生が、長く穏やかで実りあるものでありますように。
初夏の風のように、清々しく爽やかな人生でありますように。