今日、部活にOGの先輩方がいらっしゃった。私が中1のときの高2の先輩だ。散々、この先輩好き、あの先輩すき、と言っている私だが、全ては中1の夏、高2の部長に惚れるところから始まったのだった。
どうしようもなく好きだった。2、3人同じ先輩のことを好きな同輩がいて、臆病な私はどうしても学年の子にカミングアウトできなくて。先輩と一緒の帰りのJRだけが、部活の楽しみだった。
話しかける勇気もないから、せめてさようなら、だけは言おうと、先輩が電車を降りてすぐに追いかけて、エスカレーター前で挨拶するのが、夏休み前から先輩の引退までの私の習慣だった。
今好きな先輩は、心が洗われるような、とどこかで表現したが、その先輩は、現代的なかわいさが半端じゃなかった。初めて、同性を好きになって、といっても今となっては恋だったのか憧れだったのかわからないが、とにかく戸惑った。友達は、連絡先を交換して、遊びに行っていた。私にはできなかった。カミングアウトしなかったから。写真も撮れず、手紙も渡せなかった。もはや一度も話したこともなかった。ただ、引退の時に部員全員に配られた手紙に、帰り道一緒だよね、見つけてくれたら声かけてね、と書いてあって、泣きそうになったのをよく覚えている。
因みに、その手紙は、ゴミ箱に捨てた。先輩を、他の子が独占したような気持ちになった時に。だから、その恋は振られるでもなく、恋バナのネタになるでもなく、私の心の奥深くに捨てられていた。
3年経つ今では、ひとつ上の先輩方に愛されていることを感じるし、去年はだいぶ好きな先輩と話せるようになった。だから、大学生になった先輩がどうなろうが、どうでもいい。もやもやする心を無視して、そう思っていた。
今日までは。
リハーサルに先輩が来た。私は、演じる立場なのだが、ステージに出た瞬間、気づいた。あ、いる。その瞬間、今まで、周りのキャストがどれだけ緊張していようが、動じなかった心臓が、飛び上がった。舞台裏に一度はけた時、思いがけず手が震えていて、前にいたひとつ上の先輩が冷たい手で、私の震える手を握ってくださった。
なんとか演じきった。焦りに焦った割には、高い評価を得たし、名指しで誉められたりもした。その先輩は当たり障りのない応援をくださって、あっけなく終わった舞台の後、荷物を片付けていた。
その時、大学生の他の先輩に囲まれた先輩と目があった。なんとなく、目が離せなくて、あの頃のことを思い出して、背筋が冷たく、暑くなった。
目線一つに振り回されてしまうのだ。結局、先輩から逃れることはできない。
次の瞬間、先輩がニコッと笑って私に手を振った。私以外に誰もいない空間に。会釈をして、小さく小さく手を振りかえすと、嬉しそうにもっと振ってくれた。
なんで、これがあの頃できなかったのだろう。
その瞬間、背中の寒気熱が治まり、震えが止まり、私は解き放たれた感覚を覚えた。今、終わったのだと思った。嫌いになったわけでも、興醒めしたわけでもない。ただ、すとんと終わった感覚を覚えた。3年間無意識に縛られていた、その先輩への恋心が。
ずっと、羨ましかった。
笑いかけてもらえる同輩が。デートできる同輩が。LINEで、対面で話せる同輩が。私は、こんなふうに何気なく、手を振ってもらえる距離感が欲しかった。
先輩のことが好きだ。多分これから先会うことはないかもしれないけど、先輩には、可愛らしく生きてほしいと。そう思った。
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小瓶主さんの想いを優しく受け止めてあげてください
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