この前、学校の帰りに見た三日月がとても綺麗だった。
だから思わず声をあげて一緒にいた子に綺麗だねえと何度も話しかけた。
そうすると呆れたようにその月も見ないで適当な返事をされるから少しモヤッとしたけど、冗談を言って流した。
本当に綺麗だったんだ。夜空にオレンジっぽいはっきりとした光で形もとても綺麗で久しぶりにあんな綺麗なものを見た気がする。
だから、それでなんの悩みもない脳天気なやつだというように呆れられるのはとても心外で。
もちろん綺麗だと思うものは人によって違うけれど、目に入って良いと思うものぐらいの評価はしようぜ。
ただ私は目に入ったものを簡単になんでもない言葉で述べているだけなのに、文系だから、のように言われると違うなと思う。
むしろそんな表面だけを見て、他人に羨ましいなあそうなれたら私も悩みなさそうだなあなんて気軽に言ってる君の方が幸せそうだね、
なんて毒が腹に溜まる。
ああけど分かるよ。
自分が1番不幸だと思いたい気持ちは。
君は私を羨むけれど、私は他人と関わるのはとても下手なんだ。
他人だからその場限りの他人だから関わることができるし、やらぬ方が恥だと知っているからやるんだ。
他人は怖くて怖くて仕方がないし、君の前でさえ度々私は上手く笑えなくなるのに。
まあいんだ。
次の日に別の子と帰った。
前の日程じゃなかったけれど月がはっきりとしてやっぱり綺麗だった。
だから綺麗だねぇ、紅葉と雲と相まってとても秋だねぇと言うと、その子はとても共感してくれるものだから。
月が綺麗だねと言えば月を探して、見て、そうだねと言ってくれるものだから。
嬉しくなって繰り返しても何度も共感してくれたんだ。
分かりやすいその差を比べてしまっただけで、だからといってどうすることもないのだけれど。
ただ、あの一等綺麗だった月はあの子と見たかったなと思うのだ。
抱いてしまった嫌悪感は消えない。
まあけれど構わないさ。どうせ短い付き合いだもの。