いしはころがる。
ゴロゴロ転がる。
ごろごろゴロゴロ転がって、
ぐるぐるグルグル丸くなる。
吹き飛ばされて、転がって。
水に流されて転がって。
行ったり来たりで転がって。
転がり疲れてねころがる。
地面が揺れて、とびはねる。
落ちたところはつちの上。
地面の中へ、うずくまる。
ふかく、ふかく、いしはねむる。
朝がきて、夜がきて、
雲が流れて、星も流れて、
ある時、大きなあめがふった。
つちは濡れて、
いしはべちゃべちゃのドロドロになった。
大きなあめで、つちの中から放り出された。
だけど、なんだか、あたたかい。
空は、とても晴れていた。
あめの中、お日さまに当たっていると
ドロドロは洗い流されていて、
なんだか、しめりけもなくなってきた。
まだ乾いてはいないけれど、
あたたかい日差しの中、風が吹いてきて、
少し残ったしめりけが、ひんやりして心地いい。
あめはゆっくり小さくなって、
いしはのんびりと転がった。
しめったつちも、ついてきた。
あめはすっかりやんで、
いしはゆっくり転がると、
日なたぼっこをはじめる事にした。
しめったつちは、乾いてきて、
乾いたつちになった。
いしがポカポカしてくると、
乾いたつちは、ポロポロと崩れはじめて、
細かい砂つぶになった。
砂つぶは、いしをすべり降りて、
大きなじめんへ帰って行った。
なんだかいしは、からだがムズムズした。
ムズムズしていたところから、
ヒビがはいって、割れてきた。
いしに、おしりができた。
いしは、おしりいしになった。
だけど、割れたところに、
コケがはえていた。
おしりいしに、
濃いみどり色の、けがはえた。
そこでおしりいしは、
コケになまえをつけた。
とても長い間、考えた、なまえ。
「うもっけ」というなまえだ。
うもっけは、そのなまえが、
気にいったようすで、
お日さまにあたっていた。
とても気もちよさそうに、
ふさふさしている。
すると、どこからか、
白いちょうちょが飛んできて、
うもっけの上に乗った。
おしりいしは、そのちょうちょが、
うもっけを食べてしまうように思えて、
怖くなった。
おしりいしは転がった。
ゴロンゴロンと転がった。
ちょうちょはビックリして、
空へはばたいた。
うもっけもビックリして、
からだがとびあがった。
おしりいしが転がるのをやめた時には、
うもっけはヒビ割れの中にいなかった。
おしりいしは、うもっけを探しに、
ふたたび転がった。
ごろりんごろごろ、転がった。
おしりいしは転がった。
転がって、転がって、転がって、
たくさんに転がった。
だけど、どんなに転がっても、
うもっけを見つけることができなかった。
おしりいしには目がない。
手もないし、足もない。
ヒビでできた、おしりだけがある。
そんなおしりいしでも、
ひとつだけわかることがあった。
「ぼくは、おしりじゃない。」
「ヒビのはいった、いしだ。」
「おしりみたいだけど、いしなんだ。」
おしりいしは、自分のことを、
「いし」だと知っていた。
おしりいしの知っている「いし」は、
転がることができる「いし」だ。
「おしり」なんかじゃない、「いし」。
おしりいしは、
うもっけを見つけたくて、
いっしょうけんめい転がった。
転がって転がって、
おしりが割れて、
ふたつになっても転がった。
おしりいしは、
半分のいしになった。
半分のいしになっても、
ころころカラカラ転がった。
からからコロコロ転がった。
それでも、うもっけは見つからなかった。
半分になったおしりいしは、
とてもつかれた。
とてもつかれて、ころがるのをやめた。
その日は、ひさしぶりの、
どしゃぶりだった。
おしりいしは、転がるまえより、
ずいぶんと軽く、
ずいぶんと小さくなった。
おしりもなくなって、
もうただの、小さないしになった。
小さないしは、
どしゃぶりのあめに流された。
流されながら、転がった。
くるくるコロコロ転がった。
それでもいしは、「いし」だった。
流れに流され、
転がりに転がって、
どこへ転がっているのかも、
どこにうもっけがいるのかも、
なにもわからず転がった。
朝がきて、夜がきて、
月がでて、沈んで、
お日さまがもう一度やってきたころ、
ようやく、あめがやんだ。
小さないしは、
日なたぼっこを始めることにした。
あめでべしゃべしゃになって、
つちでドロドロになって、
すっかり冷えきったいしは、
少しずつあたたかくなった。
小さくなったぶん、
つちがたくさんついていて、
乾くのがおそくなっていた。
それでもじわじわ、
あたたかくなっていった。
ようやく、つちが乾いて、
うもっけを探そうと、
小さないしは、転がろうとした。
だけど、風が吹いても、
雨が降っても、小さないしは、
転がらなかった。
小さないしのまわりは、
すっかりとつちで、
固まってしまっていた。
どんなにポカポカしても、
乾いたつちは崩れないし、
転がることができない。
だけど、小さないしは、気づいた。
うもっけが、そこに生えていたのだ。
まるで、小さないしを守るように、
うもっけは、おおいかぶさっていた。
おしりいしは、
姿かたちもずいぶんと変わって、
うもっけよりも小さくなったけれど、
それでよかった。
おしりいしは、
転がらない、小さないしになった。
小さないしは、
あたたかい陽気の中で、
ゆっくりとねむりについた。
その上にあるうもっけは、
まるでおしりのような形をして、
ふさふさしていた。
おわり。
(うもっけを反対から読んで、「ケツ毛」と読んだ方は心が汚れているので、俺の心も、もれなく汚れている)
(…いや、もらしてはいない)