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鯉と見つめ合っていた話

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私がいた施設にはヤバい奴らがいて、

もやは鼻歌のレベルではない音量で歌い出す奴
急に立って髪を掻きむしって半狂乱になる奴
他人の目には見えない“何か”と話し出す奴
独り言を絶叫する奴


こんな奴らばっか。
まともな人もいるけれど、まともな人はこの状況をみて早々に脱走するから数が少ない


こんなところで作業なんざやってられるかー!って休憩時間に飛び出して近くにあるお堀に行った

お堀の水はまぁ汚いけど、鯉が泳いでるからそいつらでも見て心を落ち着かせるか…って柵から顔を覗き込んだ


水の中で静かに泳いでいる鯉を見ていたら、なんとなく苛立った心が落ち着いてきて鯉にもアニマルセラピーがあるんだな…なんて考えてた

そんな事を考えていたら鯉と目があった。
周りの鯉達も上に人間がいる事に気付き、バチャバチャと身体を捻りながら私の下に集まってきた。

餌がもらえると思ったんだろう

生憎その日は一直線に帰る予定だったから食べ物は何も持ってきてないし、そもそも「鯉に餌やるな」という看板がそこに立っている以上私は何もできない

私は何もできず、ただ仲間たちを押しあってもみくちゃになりながら期待で輝く鯉と瞳を合わせていた

もう少しすれば、この人間は何もくれないと諦めて去るだろう。と何も考えず我先にと仲間を自分の体重で下に押し込む鯉達をみていた
………が、この鯉達は中々にしぶとく確固たる意志があるのか諦めない。

5分程度 争い合う鯉達と目線があっていたのだが、流石に気まずくなってきていた。
場所を移動しよう。そう思って少し離れた場所に移動してみたが、鯉達は諦めない。また身体をビチビチと跳ね上がらせてこちらに移動してくるではないか。


かれこれ10分〜15分程度餌をやらず目を合わせてくる人間に、未だに心折れず必死に口をパクパクと動かす姿になんだか申し訳なさを感じてしまった

こんなに頑張っているのに、必死に食らいついているのに、私は鯉達の努力を酒のつまみ程度にしか思っていない。
鯉の努力を見せ物として見ているなんて、なんて嫌な奴だ。施設にいる奴らと変わりないんじゃないか。

鯉相手にそう思う日が来るなんて…
と、心の怒りはすっかり収まり、代わりに自己嫌悪にも似た感情が突き刺さっていた

流石に休憩時間も終わりにして帰ろうと、鯉達から目を離し横を見ると、次は鳩と目があった。


冬にしては随分肥えた鳩だな、なんて思って見る角度を変えると、その鳩は一匹ではなく二匹。仲睦まじそうに重なりあって互いを温めあっていた


コイツら、カップルだ。


私が鯉達に対して自責と気まずさを感じている横でイチャついてやがったのか

自責の念に蝕まれていた心がだいぶ軽くなった。
その代わり、私は鳩のバカップル達の顔が一日中離れなかった

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