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小説「相乗り夜汽車は何処へ行く」星霜編 第三項

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学校に行かなくなって三週間目に突入した。
朝起きると同時に絵を描き、お風呂や一回だけ取るご飯以外は絵を描いていた。
今日も七時に起きてキャンバスと向き合っていると、部屋の扉が開いた。
「今日、学校どうするの。」
行かないと分かっていながらも、母さんは毎日尋ねに来た。
「行かない。」
「そう。」
母さんは溜息を付くと、バタンとわざと大きな音で扉を閉めて出ていった。
(ごめんね、母さん。でも仕方がないんだ。俺は絵を描くしか無いんだ。)
俺はあの日以来、より絵に依存するようになった。
絵を描くことで、やり場のない気持ちを消化させることがやめられなかった。
俺は、現実の境目をぼやかしながら生きる術を忘れてしまった。

キャンバスに色を重ねていると、濁った汚い色が生まれた。
自分で思ったより絵の才能が無いことに、俺は薄々気がついていた。
もう輪郭のはっきりした現実は、俺を逃してくれようとしなかった。
絵の描けない自分に価値はない、絵に蝕まれた心はいつしかそんなことを思うようになった。
気分転換にベランダに出ると、空に星がまたたいていた。が、よく見ると飛行機だった。
(テクノロジーに支配された世界に、生きる意味など在るのだろうか。)
下を眺めると、さすがマンションの八階なだけあって、ある程度の高さがあった。
引き留めようとする心と反して、体はすいすいと手摺に身を乗り出した。
(これを見たら、綺羅は何かを思うのかな。)
あの色素の薄い目を思い出しながら、俺は流れに身を任せた。

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