アルビナが死んで、2ヶ月が経った。
「ふむ、模試の伸びはいい感じだな。これなら桜風もいけるな。」
「うん。でも、社会はあんまり。」
「まあいいさ。桜風は数理を大事にしているし。それに、あと1年ならお前ももっといけるだろ。」
「もちろん。頑張るよ、お父さん。」
正直、アルビナのことはほとんど考えていなかった。
とにかく何も考えず、勉強して、勉強して、という日々だった。
なんだか、感情が抜け落ちたようだった。
設楽先生が心配している気配は感じた。でも、どうでもよかった。
「あ、お父さんごめん。電話だ。」
廊下へと出てスマホを確認すると、設楽先生からだった。
「はい、天羽です。」
『設楽だ。今大丈夫か?』
「もちろんです。」
そこで設楽先生は口を噤んだ。
「どうされましたか?」
『いや。天羽ならここで冗談でも言いそうだと思ってな。「大丈夫じゃないと言ったらどうなりますか?」とかさ。』
一体僕は先生からどう見られているのだろうか。
「そんな失礼なこと、先生に言うわけ無いじゃないですか。」
『そうか。それで、今回電話したのは明來のことなんだ。』
明來。久々に聞く名前だった。
『施設の方が、面会の許可を下ろしてくれてな。天羽のことだし、明來と一番に話したいだろ。』
仲良くしはじめてすぐの頃、二人で勉強会をしたことがあった。
明來は驚くほど勉強が苦手で、分数の計算から怪しかった。
「ほら、アタシ内部進学生だからさあ。金さえあれば初等部って行けるから。あの時はまだ父さんいたしね。」
「へぇ。「勉強なんて将来使わない」ってか?」
模試で伸び悩んでいてピリピリしていたのもあって、少し毒づいてしまった。
でも、返事は意外なものだった。
「いや、勉強なんてできるに越したことないでしょ!まあ、人生勉強に全ツッパっていうのはメンゴだけど。」
「…古くね、メンゴ。」
「うるさいな〜。とにかく、アタシは勉強ができないって言ってるの。はい、この話終わり!」
この会話は、なぜか印象深かった。
「僕はともかく、明來は会いたくないと思います。」
『…やっぱ天羽、何かあっただろ。』
「何も無いです。ご要件は以上ですか?」
しつこかった。うるさかった。
はじめて、自分を引き止めてくる人をうざいと思った。
あの時の明來の気持ちが、少し分かった気がした。
『お前はしっかりしてるし、これ以上の心配はやめておくさ。ただな、天羽。』
黙れ。僕に説教をするな。
僕は勉強しなくちゃいけないんだ。
それで、良い高校に行って、良い大学に行って、良い企業に就職して―。
【それで?】
……。
それで、僕はどうするというのだろう。
記憶に巣食う金髪の少女は、濁りのない目でこちらを睨む。
『だ、大丈夫か。』
「…ええ。ただ、なんですか。」
『これは言うなって言われてるんだがな。明來の方から、天羽に会いたいって言ってるんだよ。』
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