ひとに見られなければいいと思った。
誰も私を見なければ、夜のドライヤーと朝のヘアアイロンを頑張っても肩の辺りではねる髪や、怠惰で臆病で情けない自分と罪悪感との自家撞着、窮屈で幾度か溺れた自分のいる場所さえ、きっと消えてくれる。
髪は鏡を見ないことで気にしなくても良くなり、
他と自分を見ても視認されるかどうかという点において自分は特殊なので比較することも少なくなるし、いつでも自分の場所を抜け出すこともできる。
いつもと違う場所に立てるなら、環状線に乗って一日中車窓から風景を眺めてもいいし、都会の雑踏を飛び出してどこか離れた田園風景を歩いてもいい。
……今はまだ、なにひとつできやしないから。
受験生という肩書きが首を絞めてくる。モラトリアムという小さな箱の中はお金も余裕もなく、架空の青春を眺めながら時間が過ぎるのを待つだけ。溺れる。酸欠になる。ふと、自分の姿が客観視される。それは、幾本の槍でその身を貫かれて動く気配すらなかった。血に塗れたそれを見て私はこぼす。
「どうしてこんなに傷ついているのだろう」