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『夕焼け色の湖で』 あなた様に一番に読んで欲しくて送りました…

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あなた様に一番に読んで欲しくて送りました。メールとしては長く、話としては短いものですが、読んでくださると嬉しいです(^ ^*)


『夕焼け色の湖で』


 人々が新しいコートに思いを馳せる肌寒い季節になり、少女の住む町の池に一羽の白鳥がやってきました。

 そして、夕方になると毎日のように池の前に来て座り込む少女に、先に声をかけたのは白鳥の方でした。

 それは、温かい日と寒い日が交互に続くような、春の近づく音の聞こえ始める日のことでした。

 いつも口をきつく結んで何かに耐えているような少女の、その大きく澄んだ瞳から初めて涙が落ちた時、白鳥は黙っていることができなかったのです。

「今日はいったいどうしたのでしょう。わたくしに話してくださりませんか、お嬢さん」

 言葉を話す白鳥に目を丸くして驚いた少女でしたが、それも初めだけ。利発で優しくで、それでいて優美な白鳥と打ち解けるのに時間はかかりませんでした。

 そして少女は、近ごろ自分の周りに起こる寂しいできごとの話を白鳥にし始めたのです。

 自分の思いを語りながら、少女は不思議な気持ちでした。

 今までは誰にも話したくないと思っていたことなのに、白鳥が優しく相づちをうつたびにするりするりと口から言葉がこぼれていくのです。

 少女は気づきました。本当はずっと誰かに聞いて欲しかったのです。

 気づいて、また涙が落ちました。しかし、白鳥がそれを大きな翼で拭ってくれました。

「人間というのは、いろんなものを背負いこんでいるのですね」

 少女の話を聞き終えると、白鳥はそう言ってしっとりとその目を伏せました。

 悲しみよりももっと重くて、優しさよりももっと深い瞳をしていると少女は思いました。

「なるほどそれでは、わたくしたちのように空を飛べないわけです。とても、とても、重いのでしょう?」

 少女は小さく頷きました。

「そうよ。一歩を踏み出すのさえひどく重くて、ある時には億劫だったり、またある時には怖かったりするの」

 少女の心にいつもあったのは、重みに対するもどかしさでした。重みに負けているような自分への悔しさでした。

 もっと自分にできることがある気がするのに、何も進まない毎日。

 その中で、頑張らなくてはという思いと一緒に、自分はダメだという思いもぐるぐると回ってしまうのです。

 少女は俯き、黙ってしまいました。

 白鳥は一度空を仰ぐと、夕焼けで体をオレンジに染めながら、傾いた太陽の光と同じくらい温かい微笑みを少女に落としました。

「でも、わたくし、人間のことはとても好きなんです。空の広さや凪の静けさと同じで、そうありたいと思うもののひとつです」

 少女は静かに顔を上げて、自分に向けられた白鳥の微笑みを見ながら首を傾げました。

「どうして? わたしは、あなたみたいな鳥になりたいわ」

「どうしてもなにも。ふふ、あなたがたは気づいていないのですね」

 白鳥は穏やかに笑うと、言葉を続けました。

「そんなにも重いものを背負って、それでも地を踏みしめて歩いていくことがどれほど強くて素敵なことなのか」

「強くて、素敵?」

 少女はもっと大きく首を傾げました。

「よく分からない。だって、わたしは弱いわ。いやになってしまうくらい、弱いの」

 少女は今まで、誰かに強く物を言えたことはありませんでした。それなのに、強く意地を張ってしまうことはよくありました。

 それに自分だけではない、と少女は悲しくなりました。人間はいつだって間違いばかりです。今でも遠くの国は、夕焼けとは違う赤色に染まっているのでしょう。

 それを強いだなんて。素敵だなんて。

 少女は瞳を不安に染めて、白鳥をまっすぐに見つめました。白鳥もまっすぐに少女を見つめました。

「お嬢さん、あなたにもいつか分かりますよ」

「本当に?」

「ええ」

「きっと?」

「きっと。ふとしたときに夕焼けの美しさを知ったように」

 少女がぱちぱちと目を瞬かせると、その瞳から一粒の涙が落ちました。

 頬を伝う温かさを感じながらも、どうして涙がこぼれたのか少女には分かりませんでした。

「あなたがあなたでいることは、歩いていることは、何とも比べることのできない大切なことなのですよ。いつか、いつかきっと、分かります」

 白鳥はそう言うと、少女の一粒の涙を翼で拭わず、拾いあげました。

「そうですね、今はそう思っている者がいることを、どうか記憶してください。誰かがそう思っているのならば、それは真実なのですから」

 白鳥がくちばしから息をふうっと吹き出すと、翼の上の涙の粒は空を舞いました。

 少女は小さな光を目で追いました。きらきらと、きらきらと、なんと綺麗な粒でしょう。

 そして、少女の一粒の涙は、夕焼けに染まった湖へ小さな水の王冠を作って落ちました。

「夕焼けは綺麗ですね。夕焼け色の湖も、夕焼け色のお嬢さんの涙も。温かくて、わたくしは大好きです」

 頷く代わりに、少女は立ち上がると、白鳥の細い首に優しく抱きつきました。

「あなたもオレンジに染まっているわ。とても綺麗。本当よ」

 今度は白鳥が目をぱちぱちと瞬かせました。

「それは驚きですが、お嬢さんが思ってくれるのならば、それは真実なのかもしれませんね。ありがとうございます」

 白鳥は少し照れているようでした。もしかしたら頬を赤く染めていたのかもしれませんが、夕焼けの赤さで少女には分かりませんでした。

 でもきっとそうね、と少女は心の中で思い、くすりと笑みをこぼしました。なんとも愛らしく、少女らしい笑みです。

 少女の見せたはじめての笑みに、白鳥もそれはそれは嬉しそうでした。



 春になったら手紙を書きましょう。少女はそう決めました。そして、きっと次の冬まで祖国に戻ってしまう白鳥に運んでもらうのです。

 内容は心のままに、封筒には自分の名前と住所だけを書いて。

 宛名はいりません。白鳥に選んでもらうのです。白鳥の選ぶ人なら、きっと素敵な人だと少女は信じていました。

 少女は白鳥を抱きしめたまま、そっと瞳を閉じました。

 そして、夢見ます。

 いつか手紙の返事が来る日を。そこから始まる顔も知らない二人の文通に彩られる日々を。

 そして、白鳥が好きだという人間の、強さと素敵さを知る未来を。



 夜の訪れを告げる風は、温かく優しく二人をなでていきました。池の周りには、つくしの頭が見えています。

 春はきっと、もうすぐそこです。
名前のない小瓶
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お返事が届いています
ななしさん
素敵です!涙が出ました。私も自分自身のことは弱いと思います。でもこのお話を読んだら、何故か気持ちがふっと楽に、軽くなりました。
心あたたまるお話をありがとうございました!
ななしさん
素敵な名作をありがとうございます!!


学校の道徳の本に載せたいくらいです
ななしさん
すごく素敵なお話ですね(*>д<*) 最近悩み事が多かったのですが,がんばろうと思います(*´ω`*)
ななしさん
なんででしょう、
なんだか泣きたくなりました。


うん、なんかこれで辛い時も頑張れそうな気がする、ありがと。
ななしさん
素晴らしいです。
ただ ただ、素晴らしい。
いの一番に宛メで読ませてくださって、

ありがとうございます。

絵本にしたいですね…
どなたか、温かい絵を描いて下さる方、
いらっしゃいませんかね…
36歳主婦
ななしさん
美しいです。絵画のような美しさがあります。
でもそれだけです。
もう少し簡潔にして絵本にしてみる方がいいかもと感じました。
少女にとって白鳥は、なんだったのでしょう。人間社会にとって白鳥はどんな存在を例えたのでしょう。
単なる優しい白鳥なのでしょうか。
ナマ言ってすいません。
ななしさん
絵本みたい…。


素敵をありがとう。

なんか、元気でました。




ガラス玉
ななしさん
あたたかい気持ちになる
お話ですね。
ありがとう。
ななしさん
あたしも高校時代は大好きな先輩がいたんだ~でも一方的な片思いで終わったんだけどね…。あたしはその先輩に廊下とか下駄箱とかトイレの前とかですれちがったりとかする時に本当に先輩を意識したりとかしててでもねそれはしてはいけなかった恋だったんだ~優しくばかやろう~とか言われたりとかすると何気ない会話をするきっかけになってたんだ~その先輩には何でも話せるようになってて涙する自分も素の自分も出せるようになるぐらいまぢで片思いばりばりでだしまくってたのにいざ卒業となると何にもできないし言えないまま卒業されちゃうしでまぢで高校時代は悔しい恋ばっかしてたかなでも先輩は時には優しくて本当にかっこよかった姿私は知ってたよ先輩がいなかったら私高校辞めてたかもしれないんだよ…先輩がいてくれたからもう少しだけ先輩のいる場所に私も一緒にいたいって思えたんだ先輩とのさよならの時間が怖かったから………。先輩が卒業してからも何日かは寂しくて泣いてたけどめそめそしてたらきらわれると思って頑張ったんだよ………。笑顔作って辛いくせに我慢もしたし泣かないで部活も勉強も全部頑張ったんだよ………そして私もちゃんと高
校卒業したんだよ……。先輩が卒業してったあの体育館で卒業式に出て同じありがとうって気持ちで卒業できたよ……。
だから大好きって思わせてくれて先輩にもありがとう。
先輩との時間はすごく大切な恋の時間になりました。

Foreverinmyheart
ななしさん
素敵なお話、ありがとうございました(´`*
なんか、心が暖かくなりました


ナツ
ななしさん
素敵な話をありがとうございます。

tare
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