昔から、私が大切にしているものは全部兄に壊されてきた。
形のあるものは全て壊れると言うけれど、今度ばかりは限界。
先の事を考えておらず、責任感の乏しい彼は高校の頃にグレて家を飛び出した。
時々しか帰ってこなくなった彼を親は最初こそ叱ったものの、帰ってこなくなることを恐れたのか温かく見守る方向になった。
転勤族で不自由さを抱えていた反動として捉えたらしい。彼の行動に振り回されてきた私からすれば何が不自由だったのか分からない。
独りで生きていくなら他人に迷惑をかけない範囲で勝手にすればいいと思っていた。
進学はせず仕事をすると言っていたかと思えば、彼女を妊娠させてでき婚。でも半年後には離婚。元奥さんはまだ若かったから子供はこちら側に。子供にはなんの罪もないのに生後半年で母親をいなくならせるなんて信じられなかった。
子供の幸せだけ願って生活を改めたかと思ったらそうでもなかった。実家に暮らしているから誰かに助けて生きている感じが抜けないのだろう。どこか無責任である。
それでもどこかで変わってくれると信じてた。
私の持ち合わせていない良いところだって持っていると知っていたから。
でも遂に裏切られた。
酔って父親と話している時に新しい彼女がいることを匂わせ、何なら再婚するつもりだとぬかし始めた。
知らない間に子供との顔合わせも終えていたらしい。
しかも顔合わせの反応だけで、子供のことも受け入れてくれると判断したらしい。脳内お花畑にも程がある。吐き気がした。怒り心頭して言葉に出来ず、飲み屋で大泣きした。
再婚は子供のためにもなると言い始めてこの人は死んだ方がいいのではないかとまで思った。
人見知りで、ものに対するこだわりが強くかんしゃくを起こしやすいあの子をそんなすんなり受け入れる女いる訳ないだろ。そもそもそんな良い人お前に寄ってこないだろ。
あの子が置き去りにされた日から、私だってあの子の幸せを願ってきた。
独りよがりかもしれないが、出来ることなら降りかかる全ての不幸から守ってあげたい。
将来お金の心配させたくないから就職したら死ぬ気で稼ごうと思っているし、過労によって寿命が縮んだり、自分の家庭が持てなくなったとしても構わないとさえ思っている。
感謝されたい訳じゃない。あの子に笑っていてほしいだけ。
あの子が笑わなくなる可能性をもたらすくらいなら、目の前から消えてください。永遠に。