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短編小説「あなたは優しい人だから。」

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 あなたは賢くて、聡明で、優しくて、人からの信頼があって、とにかく完璧な人だった。恥ずかしい話だが、私はそんなあなたに嫉妬していた。

 ある時、私はあなたと映画を見に行った。
 その映画は、完璧な友人を持つ主人公のお話だった。嫉妬に狂う主人公は、その原因である友人がこの世を去ることを望み、着々と計画を進める。そんな中で、友人の手の届かなさを、まるで神の子のようである、と信仰心に似た感情を抱くようになった。そこから主人公は「俺の行為は、神の子であるアイツを殺して永遠にしてやるための、正当な行為だ!」と思考を飛躍させていく。そして主人公の計画は成功し、幕が下りた。
 私は、主人公の気持ちが痛いほどわかった。敵わない相手への身を焦がすような嫉妬は、現在進行形で味わっているものだ。そして、嫉妬が飛躍し崇拝へと変わる様も、ありありと想像できた。
 鑑賞後の余韻に浸っていると、不意にあなたが声をかけてきた。
「なんで主人公はあんなに他人に囚われているのでしょうか。他人に嫉妬したところで、自分へのリターンはなにもないのに」
 私は口では
「そうですね」
 と同調しながらも、心のなかでは言い返していた。
「あなたにはわからないでしょうね。だって――。」

 またある時、あなたは私に相談を持ちかけてきた。
「僕は、誰もが見捨てられない世界を創りたいのです。僕の仕事は、そういったことのために存在しているのだと思う。でもみんな僕のことを馬鹿にするのです。そんな世界など創れる筈がないと。どうすれば、誰もが見捨てられない世界を創れるのでしょうか」
 私はあなたを軽蔑し、同時に尊いと思った。
 あなたはなんて純粋なんでしょう。あなたから見える世界は、どれだけ美しいんでしょう。
 羨ましかった。昔は私だって、世界は美しいと思えた。でも、いつからか私は汚れてしまった。これは仕方のないことである反面、あなたまで汚れてしまうことは耐えられなかった。だから、未だあなたが純粋であることがとても喜ばしかった。
 いいんです。あなたはそのまま生きていけばいいんです。あなたは変わらなくていいんです。あなたとみんなの見える世界が違うのは、私達が汚れているから。そして――。

『あなたは優しい人だから。』

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