この一年で、私は何ができた?
何をあの子たちに教えた?
何をあの子たちに残した?
あの子たちの中に、私は少しでも残っている?
思い出そうとしても、浮かぶのは、
うまくいかなかった場面ばかり。
言葉に詰まった瞬間。
無視された指示。
教室に響いた笑い声。
——全部、私のせいだ。
どれだけ泣いたのか、もう覚えていない。
何回、教科書を抱きしめたまま泣きながら寝たのかもわからない。
何回、あの子たちの名簿をみて、眺めて、何もしてあげられな無力な私を恨んで泣いた?
何回、夜をやり過ごしたのかもわからない。
ただ、確かなのは、
一年で、自分が空っぽになったということ。
それでも。
それでも、また四月が来る。
去年の四月。
ここに立てることが、ただ嬉しかった。
教壇に立つ自分を、何度も夢に見ていたから。
子どもたちの名前を呼ぶたびに、胸の奥がじんわりと熱くなって、
「ちゃんとやれる」って、根拠もなく信じていた。
笑っていれば、伝わると思っていた。
向き合えば、届くと思っていた。
——甘かった。
五月。
教室の空気が、じわじわと濁っていく。
ざわめきが止まらない。
名前を呼んでも、目が合わない。
言葉が、届かない。
何度言い直しても、何度伝えても、
自分の声だけが空回りして、教室の隅に落ちていく。
夏休み前。
もう、完全に見透かされていた。
この先生は怒れない。
この先生は怖くない。
この先生は、何もできない。
そんなふうに、値踏みされているのがわかる。
笑われる。
無視される。
指示は通らない。
教室に立っているのに、誰も私を見ていない。
そんな感覚になる。
——私は、ここにいるのに。
保護者の言葉は、やわらかくて、鋭い。
責めてはいない形をして、ちゃんと責めてくる。
「少し不安でして」
「もう少ししっかり見ていただけると」
その一言一言が、頭の中で反響して、
帰っても消えない。
消えない。
夜、布団に入ると、教室のざわめきが蘇る。
あの笑い声。
あの視線。
耳を塞いでも、止まらない。
眠れない。
気づいたら朝で、何も回復していないまま、また教室に立つ。
だけど
職員室は、優しかった。
本当に、優しかった。
「頑張ってるよ」
「大丈夫、大丈夫」
そう言ってもらえるたびに、
なぜか余計に苦しくなる。
——大丈夫じゃないのに。
評価されていると言われても、
現実は、何一つ変わっていない。
教室に入れば、また同じ。
笑われて、流されて、
何も届かない。
少しずつ、壊れていく音がする。
何が壊れているのか、もうわからない。
自信なのか、誇りなのか、
それとも、もっと根っこの何か。
涙は勝手に出る。
理由がなくても出る。
泣いて、泣いて、
そのまま眠れなくて、
ぼんやりした頭で朝を迎える。
「私は教師に向いてない」
その言葉が、頭の中で何度も何度も繰り返される。
否定しようとするほど、強くなる。
三月。
子どもたちは、何事もなかったみたいに笑っている。
進級を喜んでいる。
私があなたたちの担任でごめんなさい。
私はあなたたちに何もしてあげられなかった。
ごめんなさい。
私なんかが教師になったてごめんなさい。
そう心の中であの子たちに何度も謝りながら、
終業式が終わり教室から出ていき、下校していくあの子たちの背中を手を振りながら見ていたと思う。
お返事がもらえると小瓶主さんはとてもうれしいと思います
小瓶主さんの想いを優しく受け止めてあげてください