69569810.大晦日の夜は決まって地元の不動尊に行くことにしています。元旦から三が日まで、日の高い時間に家族なり友人知人なりと行ったりもしますけれど、それとは別に、何でしょうか賑やかな雰囲気に混ざって元気を貰いたいのです。
もう私は一部では既に古い人間で、大抵の場合、店舗での買い物の時は現金払いなのですが、そうすると否応なしに小銭は貯まって行きます。募金箱と云う手もあるけれど、盗難防止が為にこじんまりとした投入口を見ると何だか面倒にもなってしまう。厄落とし、と云う訳ではありませんけれど、一年で貯まってしまった小銭を捨てに行くことが何時の頃からか習慣?になっています。
今年は相方が捕まらなかったので、一人で行くことになりましたけれども、jackpot! そんな感じで賽銭箱に小銭をぶちまけるのは何だか清々しい気持ちになります。ジャラジャラジャ~!! 周りから変な奴おるなぁ、とか思われても別に気にしません、もう酔っぱらっていますし、いつだって私が楽しいだけで良い。
懐かしい顔でも見つかれば良いなぁと思ったりもするのですが、そんなん出会った試しも無く、やがて日付が変わるタイミングで花火が上がって、人混みが湧き立つんですね。わぁー、明けましておめでとうー、その光景を見てからそそくさと帰宅して、飲みなおして寝る、そんな感じ。
明くる日、昼過ぎ頃に安物の万年筆の手入れをしたので、友人に簡単な手紙を書いて、夜半、ポストにほかりに行く。こちらから連絡しても一向に返事を寄越さないのは、私に愛想をつかしたからなのか、何か健康上の理由があるからなのか。酒を飲みながらしたためたせいか、追伸に、偶には顔くらい見せろ馬鹿野郎と殴り書いた。
午後から降っていた細い雨は、日が落ちると共に雪に変わり、私はそのまま家とは反対方向に歩いてみることにした。既にブーツのかかとを覆うくらいに雪が積もっていて、朝にはどれくらいになるだろうか。傘を差さずに、外套のフードを被って、延々と雪路を進み、やがて辺りで一番高い坂の上に辿り着く。そこから窪地になっている駅周りを眺めると、白い夜が闇の中に沈んでいた。
明かりを目指して坂を下り、バスロータリーまで辿り着くと、時間も遅いから人気は無く、側にある交番の中のお巡りさんも、曇った硝子戸の向こうで船を漕ぎだし始めている。
喫煙所も閉まっている、どうせ人も居ないからと煙草に火をつけようとしたが、オイルが切れていたのでコンビニへ。そうして、新年早々に小銭が発生する。イルミネーションに華やぐロータリーを囲むようにして飲み屋が並んでいるが、その辺りはチェーン店ばかり入った、言ってしまえば風通しの良い場所であって、二本ほど奥の小道に入ると、土地の色が強くなる。
その先の雑木林から神社を抜けて行こうと、抜け裏の方に足を向けてみたが、いつ歩いても活気の無い路地も、刻一刻と降り積もる雪の為か、この時は明るく感じられた。綿のような雪は風の流れを露わにして、逆巻くように路地の中に吹き付けているのが分かる。私の口から吐き出される煙と白い息もそこに混ざって、闇の中へ消えて行った。
ふと、雑居ビルのくすんだ外灯の下に二人の男を見かける。一人はうずくまって相方が介抱してやっているように見えたが、近付いて行くにつれて、単なる酔っ払いのそれとは又何かが違う気がした。ふいに、彼らの足元の雪に赤いまだら模様が見え、うずくまった男は額を切っているのか、顔の右半分、眉尻から眉頭の間には幾筋かの血の流れが見えた。
面白がって声をかける。それは一種の遊びのようなもので、目の前を横切る蛇に手を伸ばすようなものだった。勿論、その牙に毒があるか否かは見定めるとして。
こんばんはー、大丈夫ですか?なんやえらい感じやけど。
立っていた男はぎょっとしたように私を見やった。歳は私よりも若そうな、学生さんと云った感じで、
ちょっと転んでじゃって、と薄ら笑い混じりに答えた。それが事実かどうかは兎も角として、うずくまった男は時々、額にハンカチを当てて呻いていたが、それはもう随分と血で湿っているように見えた。
私はふと、外套のポケットの中の、何日か前にパチンコ屋の側の路上で受取ったままになっていたポケットティッシュのことを思い出した。
良かったら、これ使ってください。
と煙草くさいティッシュを押し付ける。男は最初、怯えたような顔をしたが、私がただの酔っ払いだと分かると、少し安心したような顔をしていた。蛇に手を伸ばす、と書いたけれども、向こうからすれば得体のしれない私こそ蛇なのかもしれなかった。
雨どいを滴って流れる水の音や、電柱や街灯から落ちて来る雪の塊の鈍い音、これらの音は絶えずに、程よく酔いも回って、ビルも灯も草木も曖昧だった。俄かにうたかたの思い出が瞼の裏を掠めたが、傍のガールズバーのけばけばしい電飾の光が眼の底に反射してすぐに消えた。
神社の境内を横切るついでに、ふと釣り銭を捨てて行こうと思い、拝殿の賽銭箱にチャラチャラと軽い音を立てて硬貨を落としたが、左手はポケットの中に、渇望も祈りも無く。
何かに出くわそうがそうでなかろうが、それが人生の一日なのよね。
お返事がもらえると小瓶主さんはとてもうれしいと思います
小瓶主さんの想いを優しく受け止めてあげてください