施設の面会室。思ったより広く、今の俺の孤独を増強させてくるようだった。
緊張から、待ち合わせ時間よりも30分も早く着いてしまった。
明來に、何と声をかければいいか。
覚悟を決めた日から、全く定まっていなかった。
ごめん、大丈夫?、久しぶり、調子はどう、…。
秒針の音が俺を急かしてくる。
そこで、扉が開いた。
「明來。」
明來は悲しげに微笑みながら、こちらに近づいてきた。
「瑠唯、痩せたね。」
「…明來、どうして。」
「まだ、話したくないかな。」
明來の負った心の傷は、まだ触れてはいけないようだった。
「そういえば、髪切ったんだな。」
「そーそー!ボランティアでヘアカットしてくれる団体さんが来てさ〜。せっかくだしバッサリ切っちゃった!」
「へぇ。そんなのあるんだな。」
肩ほどまであった金髪は、男子と見紛うほど短くなっていた。色は、ブリーチによって黒くは戻らなかった。
「なんかさー、最近自分が女かどうか分からんくなってきててー。」
そう語りだした明來は酷く孤独に見えた。
「女に戻んなきゃっていう思いもあって、体売ってたんよー。稼ぎもいいしね。でも、もっと辛くなってきちゃってさ。」
「そう、だったんだな。じゃあ、トランスジェンダーってことか?」
「まだ分かんなーい。ノンバイナリーみたいな?」
正直、突然のカミングアウトに動揺していた。
俺は明來のことを大抵知っていると思っていたし、明來を女子だと思って接してきた。
でも、俺と明來の間には認識のズレがあった。
「だから母さんに仕事辞めたいって言ったら、母さん逃げちゃったんだよねー。」
ああ、と納得した。
明來から湧き出てくる孤独の正体は、これだったんだ。
どれだけ近づいても、ずっと孤独な目をしていた。
この孤独を、俺は知ってる。
ブロンドの髪の少女と、もう一人。
「なあ、明來。今度、設楽先生と話してみてくれないか。」
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