こういう現実もある。看過できぬ医療業界の闇。そんなはなし。

僕の現在位置です

4月下旬、Cちゃんから吉報があった。
介助ありの条件つきで入浴の許可が下りたという。
嬉しそうだった。とっても。

だが。

そのあとのお見舞いのときに聞いた話。
お風呂に入れるようになったのを機に、インナーを買い増したいと思い立ったそう。
スマホがあるからネットで買うのはできるとして、配送先を病棟にして受け取れたらいいなと思って看護師に訊いたら、断られたというのだ。
「？」と思ったけど、曰く「うちらが受け取って、もし失くしたら責任取れないから。いつも来るあの人（注：僕のこと）のところに送って、持ってきてもらえばいいじゃない。だって洗濯までしてくれてんでしょ」と。

やっぱ終わってるわ、この病棟。
少し無理してでも転院させてあげればよかったかな。

僕は普段から「遠慮しないで」と伝えているし、彼女は彼女で、きっといろんな葛藤がありながらもこちらを頼ってくれている。
たぶん、本音を言えば「買い増し」じゃなくて「買い替え」たい時期なんだと思う。
あぁ、だいぶ傷んできてるな……それは僕にもわかる。でもなかなか男からは言えないのだ。
お互い大人だし、言っても大丈夫な関係ではあるんだけど、なにぶんデリケートな事柄で。
思慮深いCちゃんのことだから、そのあたり分かってくれてるんだろう。買い替える＝今までのは処分するってことを考えたら「無理を言って揃えてもらった身として、『買い替えたいんだよね』とは言えない」そうやって気を遣ってくれたのだと思う。

しかしナースの言い分もふざけてるよねホントに。
百歩譲って「失くしたら責任持てない」というのは理解しよう。
だけど「（汚れてしまった下着の）洗濯までやってるんでしょ」なんて、面と向かって患者に言うかい？
あたまおかしいよ。

本人は骨盤折れて動けない、頼れる親族がいない、出入りのクリーニング業者もない、なのに病棟の人間は「誰かにやってもらって」と言う。
やってもらえじゃなくて、そういう事情のある患者に対しては個別に対応するだろうに。僕のところだってそうしてる。

誰が好んで異性の人に洗濯をさせたいと思うのか。
性別関係なく。
まともな看護をしてもらえず、そういうケアも満足にできてない状態で着たもの、それを男性に託さざるを得ない立場の女性の胸中を考えたことはあるかと問うてみたい。
分かったうえでのナースの行動言動だとしたら、もはや鬼畜の域というほかあるまい。

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あのときCちゃんが、どれだけの羞恥心を振り切って僕にその話を切り出したか……
涙を流して声を震わせながら「もし見たときに幻滅したら、無理だって言ってね」と。
（おそらく「ごめん、無理」という男性は一定数いるんだろうけど、僕はそのことを否定しない。通常、見る機会もほぼ無いはずだし）
「女の人なら誰にでもあることだから、気にしない気にしない。すごく言い出し難かったこと、相談してくれてありがとね」と言ったら、彼女は涙をボロボロ溢して一頻り泣いたのだった。
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「いいよ。僕の住所に配達してもらいなよ。Cちゃんの家の住所のまま発送されて荷物転送しちゃうと中継のお金取られて勿体ないじゃん。それか局留めにしとけば途中で引き取って積んでくる」
「また迷惑かけて本当にごめんね。僕の現在位置くんの都合考えたら置き配が一番いいよね。でも、おうちの近くか病院の近くで局留めするほうがいいのかな」
「どっちでもいいよ。通販サイトによって局留めの配送してないところあるけど、もう決まってるの？」
「あっ、そうだね。そこ調べてなかった。じゃあ局留めはやめとこう」
「そのほうがいいと思う。もし不測の事態で留置き期限を過ぎたらキャンセルされちゃうし。僕のところに送ってもらえば確実に受け取れるかな。じゃ、発送されたら伝票番号を教えてくださいな。置き配に変えておく」

そんなやりとりをして、久方ぶりのお風呂の感想も教えてもらい、僕の職場の話も聞いてもらって、あっという間に面会時間は過ぎていった。
骨のほうは一時期、付きが悪くなったことがあって心配したけど（ホルモンバランスの関係かも）、その後は徐々に回復して、ようやっとここまで来た。
何度も絶望の淵に落とされながらも、本当によく耐えたと思う。

「トンネルの出口もそんなに遠くないから、あとほんの少しだけ、頑張ってみよう」そう言ってハグを交わした。
僕は伴走者として貴方のそばにいるよ。

♫Beautiful View / AMADORI