以外、そして想定外。
思わず口角が上がる展開。
正木博士の遺書パートが終了し、主人公の視点にようやく戻った。
やはり今まで主人公が読んでいるものを読まされていたんだなと、一安心。
すると遺書を書いたはずの正木博士が目の前に!
序盤に来ると予想したルートの1つが当たっていた(全部記憶喪失した主人公の記憶を取り戻すためのお芝居展開
…我ながら捻くれた予想である)。
正木博士から伝えられた事件の概要、大事件の中心人物呉一郎の祖先の心理、キーアイテム絵巻物…
主人公は絵巻物を読み、その内容の残酷さに動悸が止まらない。
ここまでで私は主人公が真犯人で、記憶を喪失しているのだと予想していた。
記憶を取り戻して自らの悪行に絶望しEND…となると。
しかし本も残すところ8分の1でも主人公は記憶を欠片も取り戻していない。
一番古い記憶は、やはり冒頭の時計の音。
いつ思い出すのかもうわからない。
このときの私の頭には、「一切思い出せない」という事象の想定ができていなかった。
物語の最後が近い場面、主人公と犯人呉一郎は同一人物かどうかも不明で、しかし主人公と呉一郎は見た目だけならそっくりで…
「呉一郎」にまつわる品々を見、聞き、それでも毛ほどの回復を見せない主人公の記憶。
主人公は自分は呉一郎とは別人だと結論づける。
しかし、本当の名は不明のまま。
呉一郎でないとしたら一体誰。
正木博士が去った部屋で主人公はおぞましい絵巻物を広げる。
そこの最後に、正木博士を苦しめ、入水の決心を固くする言葉が書かれていることを発見する。
思わず飛び出してしまった主人公。
しかしあの文言を正木博士が見てはいけないと思い立ち引き返す主人公。
引き返すと時間は大きく飛んでいた。
ついさっきまでの物語から一ヶ月も飛んでいた。
正木博士が亡くなってから一ヶ月、七号病室の病人が正気に戻ったことが確認されてから一ヶ月。
主人公がさっきまで見ていたのは…いや、幻視していたのは現実の上に書き足された一ヶ月前の経験であった。
正木博士は亡くなっていて、解放治療場には2人の狂人しかおらず、前の場面で読んだ遺書や品々、そして原稿「ドグラ・マグラ」は分厚い埃を被っていた。
主人公は歩く。
居るべき場所へ。
名も忘れ、過去も忘れ、思い出せるのは学術の奴隷たちだけ。
七号病室の病人は床につく。
最後まで名も「思い出せぬ」まま。