それでも君は、救えなかった
「どうぞ」
2階に着いてまもなく、真央さんが少しだけ私の方に体を向けた。
「ありがとうございます」
ふぅ、と一息吐いてから、ドアノブに手をかける。
部屋に入ってすぐ目に飛び込んできたのは、教科書や授業用ノートはそのままの勉強机と、部屋の4分の1を占めるベッドだった。
それを見た途端、懐かしさと切なさが胸を締めつける。
前にここに遊びに来た時も、このベッドに飛びこんでくつろぐ那央ちゃんに許可を取って、私もベッドにダイビングしたな。
やった時は凄く緊張してたけど、今となってはいい思い出だ。
「そのままなんですね」
「持って行かれたもの以外はね」
……相当、根に持っているのかな。
当たり前か。自分の子が人を殺すはずがないと、親なら誰でも思うだろう。
「あの、ちょっとだけ遺品に触れてもよろしいですか」
恐る恐る訊く私に、真央さんは穏やかな肯定を返してくださる。
私がやけに優待されるのは、何でだろう。ちらとそんなことが頭を掠めたけれど、気にしないことにした。
何かヒントがあるかも、と様々な物を触って確かめ始めたけれど、これと言った手がかりはない。
そもそも、私はいじめがあったかどうかを知りたいのであって、その真実が眠るのは学校なのではないかとさえ思った。
このまま探しても、何も分からないんじゃないか。
諦め始めた矢先だった。
窓際の方に、くすんだピンク色の何かを目が捉えた。
カーテンの下に押し込まれるようにして、それは置かれている。
「あれって───」
駆け寄って手に取ってみると、私が掴んだそこは“耳”だった。
「あぁ、それはアキメネス植物園で買ってあげたぬいぐるみよ。可愛いでしょう」
ドアを開け放ったまま部屋には入ってこない真央さんが、そう言って微笑む。
アキメネス植物園。市営の植物園で、名前の通りアキメネスという花が名物の(多分)観光スポットだ。
少しだけ引っ張ると、全容が見える。兎だ。
「兎のぬいぐるみ……」
小さくつぶやいて、ぬいぐるみを下から持ち上げると、何やらザラッとしたものに触れる。
ん? と思ってひっくり返すと、ファスナーが縫い付けられていた。
「わっ、何これ」
興味本位で開けてみると、ぱらりと紙が出て舞い落ちる。……紙?
気になって拾うと、それは四つ折りにされていた。
「何でしょう、これ」
真央さんに訊いてみるけれど、「私も初めて見たわ」と首を傾げる。
親でさえ知らない秘密……なんだろう。礼を失してると分かっていても、どうしても好奇心がうずく。
紙を開く。そこには、明らかに見覚えのある那央ちゃんの字体。
中身は───
何これ?
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました! 今回はちょっと短めかも?
毎日投稿を目標としていたんですが、1日空いてしまいましたた…リアル三日坊主ですね……。頑張らないと!
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