次の日の昼休み。
私はチャイムと同時に教室を出て、隣のクラスへと向かった。
会いたい人は1人だけ。
桐坂くんだ。
給食当番の人達が出ていくのを待って、それから教室を覗く。
桐坂くんの席は、ドアから2番目に離れた列だった。
「あの、ちょっといいですか?」
すぐそこに居た女の子に声をかけて、彼を呼んでもらった。
「何?」
どこか人と距離を取りたがる桐坂くんは、それでもちゃんとドア付近へとやって来てくれる。
私が「ここでは話せないことなんだけど」と周りを見渡しながら伝えると、話題にある程度の察しがついたのか「分かった、移動しよう」と言ってくれた。
「ここなら、きっと誰も来ない」
そう桐坂くんが言って私に向き合うように振り返ったのは、第三理科室だった。
確かに1年生から3年生まで、この教室を使っているところは見たことがない。
「気遣ってくれてありがとう」
「あぁ。……で、那央の話なんだろ?」
唐突に本題に入ったのでびっくりした。
「あ、うん」
そのことなんだけど、と切り出した途端、なんだか自分が今から話すことが失礼なことのように思われてならなくなった。
急に口ごもった私を心配してか、桐坂くんも「三笠?」と声をかけてくれる。
「ごめん。えっとね、そのことなんだけど、あの」
私は意を決して、左ポケットからあの紙を取り出した。
本当はファイルに入れて大切に持ってきたかったんだけど、ファイルがポケットに入るはずもなく、断念した結果だ。
「これが、那央ちゃんのぬいぐるみにあって」
「ぬいぐるみ?」
「そう。ピンクの兎で、ちょっとすすけてるけど可愛い感じの」
咄嗟に出てくる言葉はやっぱり拙くて、そもそも話したいのはこんなことじゃないんだと焦る。
「とっ、とにかくそれを見てほしくて」
先を急ぐと、桐坂くんはまた心得たように紙を開いた。
「な、に。これ」
低くかすれた桐坂くんの声が、耳元に切なく残響する。
それきり押し黙った彼に、私は今の精一杯の考えを伝えた。
「那央ちゃんは仕方なくいじめをやってたのかなって思う。誰に命令されたのかとか、何のためにとか、全然分からないけど」
分からないけど。
「桐坂くん、何か知らない?」
1番そばにいたあなたにしか分からないことって、きっとあるんじゃないのかな?
私は唇をぎゅっと噛みしめながら訊く。
桐坂くんが昨日言いかけたあの続き、それを教えてほしかった。
もしかしたら、もしかしたらそれは。
真実の一片なのかもしれない。
「どうしてそこまで知ろうとするんだ?」
「えっ?」
「那央と三笠が友達だったことは知ってる。だけど、そこまで深い関係だったようにも見えなかった」
桐坂くんの後ろにある窓から、昼の強い日光が差し込む。
そのせいで、桐坂くんの表情ははっきりとは分からなくなった。
「……那央ちゃんは、私の憧れだったの」
「憧れ?」
不信感もあらわに尋ね返される。
「うん。私の過去の話になっちゃうんだけど」
恐る恐る話し出すと、桐坂くんは途中で遮ることもなく聞いてくれた。
私は小学校の頃から、引っ込み思案な性格だった。
前に出ることは怖い。人と関わることは怖い。
何かをして傷つくなら、何もしなければいいとさえ思っていた。
中学校に入って環境が変わっても、その考えは変わらず日々は過ぎていって。
いつしか私に、授業外で話しかけてくれる子はいなくなった。
それでいいと最初は思って、別段気にすることもなかったけれど、学年が上がりクラスが変わりそれをよしとしない子が現れた。
那央ちゃんだった。
「三笠さん、何の本読んでるの?」
最初に関わったのは、ある日の昼休み。
本を覗き込まれた時は、びっくりしすぎて息が詰まった。
「『17分前、君が好きな僕を殺した』? あ、聞いたことあるかも!」
いちななって呼ばれてるやつだよね! なんて話しかけてくるその人は、怖いくらい明るい笑顔で。
「私、結末だけ知ってるんだよ。確か、真実の僕を君に知ってほしくてわざと目につくようなことを……あっ、ネタバレしちゃった⁉︎」
屈託なく笑う彼女に、私の人と関わることへの抵抗も失せてしまった。
誰にでも同じように明るく接して、いつの間にか大好きにさせてしまう那央ちゃんを、私は心の底から尊敬していたし、本当に大好きだった。
その「好き」は恋愛的なものじゃなかったけど、それでも那央ちゃんは私のヒーローだったのだ。
「私が一方的に憧れてただけだし、那央ちゃんの分け隔てなさもあってきっと凄く仲が良いようには見えなかったと思うけど、それでも本物なんだよ。私、那央ちゃんが大好きだったんだ」
ううん。今でも。現在進行形で。
「……大好きなんだ」
だからこそ知りたい。
那央ちゃんの苦しみを理解して、それからまた那央ちゃんに会いたい。大好きだと言いたい。
「だからお願い。教えて。桐坂くんが知っていること、何か」
教えてください。
深く頭を下げた私に、桐坂くんは「頭上げろ」とぶっきらぼうの言う。
何か、教えてくれるのかな。
淡い期待と共に顔を上げると、桐坂くんはこう言った。
「那央と入夏は、俺が殺した」
…………え?
言葉を反芻する。何度も何度も、理解しようとする。
でもできなかった。
昼休みの喧騒が遠く聞こえた。
桐坂くんは無表情でそこに立っていた。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
前回の投稿が期始テスト直後、今回の投稿が期末テスト直後。
小説の投稿頻度の遅さは、恐らく宛メで1番だと思います。
不名誉なことですが事実なので……((
もはや亀に失礼になるほど遅いですが、ここまでくるともう手の施しようが………(((
感想や評価をくださると励みになるので、是非お時間ある方はお願いします。それではまた!
165520通目の宛名のないメール
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お返事が届いています
あ、ありがとうございます……!
恐れ多いです、本当に。
頑張ります!!> <
おーー!!!!
展開が面白い!続きが楽しみです!いつでもいいので書いてもらえると嬉しいです٩(๑òωó๑)۶
うぉおおおおおお✨✨
桐坂くんが那央ちゃん達を
殺した…だと!?
急な展開!目が離せない…
やっぱり、はるかさんは
読者に次回を読ませようとする
(悪い意味じゃないですよ)
文章の作り方が凄くお上手です!
本当に尊敬します✨✨
あの!僕の方が
投稿頻度えぐいですよ!
宛メ界一位だと思われます。
実は…『幾度と君と。』を
1ヶ月半くらい放置してまして☆
本当にアイデア浮かばなくて
ヤバいんですよね。
はるかさんはそんなに
空いてないと思ってます!!
だから大丈夫ですd(^_^o)
次回も待ってます٩( ᐛ )و
実はずっと追ってきた者です。
普段は語彙力がないのでお返事は書かないようにしていたのですが、今回の展開はあまりにも衝撃的すぎて、それを伝えたいばかりにこうやって書いています。
まさか、桐坂君が2人に手をかけていたとは思っていなかったので、めちゃめちゃびっくりしているところです。
ほんとにびっくりしました。
でも、「殺す」っていうのは物理的な行為も指すけれど、心理的な行為も指しますよね。
できれば心理的な行為の方であってほしいです。
桐坂君は個人的に結構好きだったので、人を殺していないでほしい。
次回をそわそわしながら待とうと思います。
はるか@いれりすさんの他の小瓶
小説「それでも君は、救えなかった ⑦」 (この小説は最早、私の生存報告と化しています)
#お知らせ #低浮上すぎるディレッタント ……我ながら、この(←)表記なに?
以下はまだお返事がない小瓶です。お返事をしてあげると小瓶主さんはとてもうれしいと思います。
フォローしてくれてる方へお知らせ。浮上少なめになります。理由は、私が誕生日を迎えたと同時にYouTubeやその他諸々のアプリを始めたからです
思い出したくないことばっかり思い出してしまう。
またやってしまった…確かに予定外だったけど望んでないっていう訳じゃなかった
有給休暇
質問です。夜に1度だけ話したオンラインゲームの男の人を好きになってしまいました。
1年前の選択をずっと後悔している。もう終わっている。どうにもならない。死ぬ以外にリセットする方法はない
高校生活でチャラい先生……
逃げたことについて
普通に生きたいだけ。平凡すらも遠い。ただ人並みに仕事も恋愛もしたいだけなのに…介護、自分の病、過去のトラウマ。どうしてこうも重なってしまうのか
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