先日、私は諸事情あって部活を退部し、別の高校に編入することになった。
昨年度3年生だった先輩と同タイミングでの脱退となったのだが、平穏に門出を迎えると思っていた私がいた。
それなのに。
私には、親友や家族であろうと簡単には言えない悩みができてしまった。
卒業して今では大学生になったとある先輩の事を、好きになってしまったのだ。
先輩が好きなだけなら別にいいだろう。
問題は、それが同性の先輩だということにある。
気にしてしまったきっかけは、部活の定期演奏会で行ったミュージカルの影響だ。
私のいた合唱部では、毎年3月に定期演奏会があり、今年の3月はコロナの事もありどうなるかと危ぶまれたが、結果的に昨年中止になった分まで楽しむことができた。
そして、その定期演奏会の演目の一つにそのミュージカルがある。
たまたま私とその先輩は、そこまで熱い描写はないものの、最終的に恋人となるとある男女の役を演じることとなった。(具体的な役名などは、身バレの可能性があるのでここでは控えさせていただく)
そこで、劇中でとある人物に呪われ盲目となった男に手を差し伸べ、盲目にされた事に泣き、その男の目が治り結ばれる……といったシーンが存在するのだが、
(私の記憶が正しければ)そのシーンの練習で先輩の手を取ったままなんやかんや無自覚(?)で時が経ち、ふとずっと手を繋いでいたことに気づいた先輩が「あ、ごめん!」と急に手を離したことにキュンとしてしまったことからだった。
その時私は笑っていたが、内心(え!?は!??待ってやばい…可愛い……先輩可愛すぎる……どうしよう……)となってしまった。
その男がただ一途に女のことを想い続け、何回か逢うものの事情があり結ばれることができない苦しみに泣く描写もあり、最後のシーンでようやく結ばれた時に女を見つめ甘い言葉をかける…といったイケメンっぷりもあり、それから素の先輩に戻った際のギャップ…という事もあったのだろうけれど、私はその一件以降、先輩に対して妙に胸騒ぎがするようになってしまったのだ。
先輩が近くに見えると、目で追ってしまうようになってしまった。
同期での先輩方へのプレゼントに書く文で、「ずっと大好きです!」と書くと決めたが、ひっそり先輩宛のものだけ「ずっとずっと大好きです!」としてしまった。
そしてそのプレゼントをくじ引きの結果私の好きな先輩に渡す事になった同期を表には出さず心の中でひどく憎んだ。
一年生の頃からパートや二人組の振りなどで接点があったことに今更運命を感じた。
何より、何となく平穏にいられればいっか…とのびのび生きていた自分が…
用事がないと自分から先輩に声もかけられないような自分が。
ひどく嫌いになった。
そもそも異性ではなく同性なのだから、仮に話すことができたとてそれがわかってもらえるかなんてまだ遠い話だとはわかってる。
なんならその先輩、とある男性俳優さんが好きで、部活でのあだ名の由来にその俳優さんが演じた役の名前も入っているわけで、何となく普通に異性愛なんだろうなぁ…と思っている。
それでも、自分の中ではまだケリがつけられなくて。
あの時の先輩に接して、自分とは違うものに…
なんというか、自分よりもずっとピュアというか清純って感じだろうか。
そんなものに対して、これから先輩が出会うであろう男性に、
先輩の事を独り占めして愛するであろう未知らぬ男にさえ、
「誰にも渡したくない…」と一人で嫉妬心を募らせてしまうほどには焦がれてしまった。
他の先輩情報も込みだと、かつて先輩は私の事をよく裏で「可愛い」と言ってくれていたらしい。
でも、それは、きっと。
「可愛い後輩」って意味で思ってるんだろうなぁ
。
「好き」も「大好き」も、そのまま「Like」なんだろうなぁ。
いつかまた会えた時、私はどうすればいいんだろう。
ひた隠しのまま、「可愛い後輩」でいられるのかな。
もう一度、あのときみたいに温かい手に触れたい。
ミュージカルの集合写真を撮る時、役のポーズで撮ることになって迷った挙句手を繋いだ時みたく、二人で笑い合いたい。
…何でこんなに苦しいんだろうね。
ミュージカルの中では想い苦しんでいたのはあっちだったのに。
戻らない温もりをスマホに残った記録から少しもらいながら、今日も私は寂しさに心を浮かべることだろう。