同じクラスの一人の女の子に、二人きりでのお出かけを誘われた。
どうやら彼女はケーキバイキングに行きたかったらしい。
その子に誘われてから、その子の顔を初めてちゃんと見た。
自分はいつも俯きがちなのかもしれない、今までちゃんと見たことなかった。
可愛い顔してんだなと思った。
丸顔で、それを囲むようにさらさらそうなボブの髪が揺れている。
大きめの黒縁めがねがよく似合っていた。
デートじゃん、と思ったということは口が裂けてもいえない。
約束した日の朝が来た。
私服もオッケーな公立高校に通う自分だが、いつも制服を着て学校に行く。なぜかというと選ぶのも面倒だし恥ずかしいから。
昼までの授業が終わってから行くから、制服で行こうかとも思ったが、
可愛いといわれたくて、学校に初めて私服で登校した。
大きな襟のだぼっとした白いニットに、青緑の長い真っ直ぐなスカート。
金色のピンを頭に二本さして、親に「あんたいつになったら彼氏できるの」といわれて去年もらった香水を初めて使った。
副担任の若い男の数学教師に私服を着てきた理由を尋ねられ、放課後に、、と濁したら「若いっていいねえ。がんばれ、楽しみなよ」と言われた絶対デートだと思われた。いやデートなんだけど。違うけど。デートであってほしいけど。
授業が終わって一緒に店まで歩いた。今まで普通の友達だと思っていたはずなのに、風が吹いてふわっと香る彼女の匂いすら気になるようになってしまったことが情けない。
学校からだいぶ離れてから、彼女の左の袖をたぐってみた。
今から考えたら、こんな気弱な自分がどうしてできたのか想像もつかないが、不思議そうにこっちを見た彼女が可愛すぎて、今でも自然と笑みがこぼれる。
手を繋ごうと言ってみた。デートじゃん、と彼女は笑って、手を繋いでくれた。
ケーキはおいしかった。たくさん食べた。素敵な80分だった。
そのあと町を歩いて、ずっと恋人つなぎで歩いて、ぱっと目に入ったゲームかアニメかのポスターを指差して彼女が「あれ推し~」って笑った。
銀髪のクールな感じの男の人が踊っていた。
そこで夢から覚めた。
はっと我に返った。そうだ。彼女と結ばれることはない、だって自分は同性だから。
何に舞い上がっていたのかすらよくわからない。でも、
一人になってもまだ消えない、彼女の手の温もり。