わたしの猫はとてもかわいい。
胸を張って言える。わたしの猫はかわいい。何度でも言える。
写真をアップして、褒められて、とても嬉しくなる。
嬉しくなるんだけれど。
たぶんわたしが物書きだってことをフォロワーの誰も覚えてない。わたしが好きなものについて喋ってもフォロワーの誰も興味を示さない。
わたしがあの子がかわいいと、あの子がこんなことをしていたら良いなと言う。
以前はいいねをつけてもらえた。鍵垢だからリツイートはできないけれど、いいねしてもらえた。
わたしの発言が良いと言った人がいる。最高とか大好きとか、嬉しいことを言ってくれた人だった。
わたしは、それはそれは舞い上がった。
もっと話せばもっとこの人を喜ばせられるかと思ったからたくさん話をした。
こんな話はどうだろう。
あんな話はどうだろう。
こういうのは、あの人は好きだろうか。フォロワーたちに一瞬でも好いてもらえるだろうか。
猫を飼い始めた。
写真をアップするようになった。
二ヶ月が経った。
わたしの話にいいねをくれる人はたったひとりしかいなくなった。
そのひとりは、わたしを褒めてくれたあの人ではなかった。
むろんそのひとりだってわたしは大好きだ。だっていつも見ていてくれるから。
でもわたしは、その人も勿論だけれど、褒めてくれたあの人に見て欲しかった。
わたしの話を。わたしの作品を。わたしは見なくてもいい、ただ創作を見てもらえれば、それだけで幸せだった。
見てもらえさえすれば良かったのに。
猫の写真をアップするだけのアカウントを作った。
あの人は今はいないけれど、きっと見つけたらそっちをフォローして、そしてわたしがぺらぺら喋るようなアカウントはブロックかリムーブでもするのだろう。
わたしはあの人に期待してもらえたから本を書き始めたと言うのに、あの人は完成を待ってくれることもなくわたしに興味を失った。
本は完成させる。
あの人に期待されたぶんだけはこなす。
40万字。書きあげてみせよう。
でも、あの人が不要だというのなら、わたしはもう好きなものの話などしないでおこう。
必要最低限。原稿とは別に書いた作品をアップするだけのアカウントにしよう。
前のアカウントではそうだった。また以前のように黙りこくることはきっと難しくはない。
あの人は、わたしのフォロワーたちは最初からわたしに大した興味なんて持っていなかっただけだ。わたしがつまらないから、あの人たちの期待に応えられるだけの作品を書けもしなければおもしろい話もできない、だめな人間だったから飽きられた。
ただのシステムのようになればいい。
無言で、ただひたすらに作品だけをアップし続ければ、何も褒めてもらえなくたって、誰に認められなくたって悲しくない。
あの人たちはわざわざ機械を褒める人ではなかった、そう思えばいいだけの話になるから。
最初から喋らなければ飽きられることもなかったのに。