何も選べなかったと言って
冷たい岩に腰掛ける老婆がいる
何かを掴もうとして
手を噛まれた若い女がいる
両目の潰れた酔っぱらいが
「夜明けが来たよ」と言うならば
隣人たちは皆、口々に「そうだねと」いうだろう
たとえそれが明けない夜の真っ只中だったとしても
痩せたあばらを抱き締めて
悪夢の再来に備えている
青空なんか何処にもない
気の狂いそうな記憶がある
「生き延びた事はラッキーだけど、
生まれてきた事はラッキーじゃないんだ」
誰かさんがそう自嘲しながら
煙草の煙をかすめていく
僕は少しだけ、泣きそうになる
明けない夜の真っ只中なのに
「何も求めてはいません」
そうキッパリと口にして
奴隷たちは丘を登っていく
苦すぎる想いの中に身を引き摺って
死を願いながら
朝がある方を向いて、慎ましく涙を流す
明日のある方へ、明日のある方へ
砂のように世界が流れていく
僕たちはよろめきながらも
かすむ視界に夜明けを捉えようとして
本当に必死だった