※暑くて長くて重い朝だったから、電車の中でつらつらと。吐き出すだけ吐き出します。だからとても長いです。
眠気を抑えられない朝、三番線までしかない小さな駅に看板が立っていた。
「人身事故のため遅れが出ております」けっこう長い時間だ。死んだな、と思った。ああ、なんということ。
しかし、自分の乗る電車と反対方向の話だ。「関係ない」と欠伸をして、「それにしてもまたか。迷惑な」と思った 。
思って、よく考えて、ぞっとした。
「生きて」「死ぬな」とは所詮自己満足の言葉だとは前々から思っていたが、自分はよく使う。それはもう偽善と言うより、人間としての「言葉の義務」みたいな感じだ。
「おはよう」に「おはよう」で返すしかないように、「死にたい」と言われたら「いや生きてくれ」と返すのは普通だろ? そういう割り切り方。
でもほら、死んだらもう「迷惑な」で終わり。心の底から無意識に「迷惑な」で欠伸。顔も知らない彼は、「処理の大変な死体」扱いだ。
彼がどんなに素敵な笑顔をしていたか知ってるか。知らねー。彼がどんなに苦しんで生きていたか知ってるか。知らねぇってそんなの。考えてらんない。
──でももしさ、
彼が宛名のないメールで「死にたい」って言ってたあいつだったらどうよ、自分。
そこまで考えて、「ぞっとした」。癖のように触るポケットに入れておいたはずのケータイが、気付いたらなくなっていた時みたいな冷や汗。
いや、もっと酷い。手を繋いでいたはずの誰かが、手だけを残して消えたような。
そうして、くそ暑いのに半袖の端を引っ張って長袖にならないかとバカなことしている自分に気づく。
溜め息ついたついでに、すっかり覚めた目で向かいの番線を見つめた。会社に向かうであろうスーツの男が、上着を片手に時計を眺めている。
心の中、見えるかよ、と誰かに投げかけた。あのおっさん、そうとう苛ついてるだろ?──あんたにだよ。
あんた。誰か。全く知らん彼。もしくは彼女。自分より下の娘か、自分より年上のオヤジか。すれ違ったことのあるやつか、一緒出会わないやつか。それとも、赤い糸の先のやつとか?
知らんけどさ。
思うわけ。
あんた、本当にそんなに価値のないやつだったのかって。
あんたの知らない奴らに「迷惑な」とか言われてさ、舌打ちされてさ、しまいにはこんな愚かなやつに同情されてさ。
なんも知らねーけど。
あんたの背負ってた絶望は、あんたの命と引き換えに消すほど価値のあるものだったのかよってさ。
思ったんだ。
仕方ねぇじゃん。
瞬間的に悟った。無意識で事務的な「生きてくれ」だと知って、なんで繰り返し言ってしまうのか。
こういうことだよ。
こんな朝──誰も好きじゃねぇんだ。
つまりは、全然割り切れてなかった。無意識の下で、臆病者が喚いてただけの話。
生きてくれとか。
生きてくれ、とかさ。
ポケットのケータイを確認して、少し安心して、日差しばっかり強い空を見る。馬鹿みたいな青だったから、マジで「ばぁか」と口だけ動かした。
ばぁか、と本当に言いたい奴が手だけを残して消えた朝。いつもの電車が来たから、こちらはもう時を進められる。
今日が動き出す。だが一度だけ、一度だけ欠伸を噛み殺して息を止めた。息を止めたら、目の前をクロアゲハが優雅に飛んでいった。
もしかして、
──あんた?
とか、自分も馬鹿なこと考えてしまう。そんな朝だった。
そんな暑い朝だった。
お返事がもらえると小瓶主さんはとてもうれしいと思います
小瓶主さんの想いを優しく受け止めてあげてください
ななしさん
とても読みやすくて すっと入ってくる文章でした。
ななしさん
自分は人身事故に直面したら、関係ない線ならどうでもいいやとか
自分の乗ってる電車ならスーツのおっさんみたくイラついてるなぁ。勘弁してよーとか
けど、同時に虚しいってか悲しいてか感じる。
人身事故を聞く度に虚しさが残る
飛んだ人が抱えていた絶望ってどんなだったのかなとか
誰かにSOS発信出来なかったのかなぁとか。
電車に飛び込む程思い詰めるって、並大抵の事ではしないだろうなぁ。
かなしい。
ななしさん
死にたいとか生きることとか
そういうことに関する宛てメの中で
あなたの文章がもっとも心に素直に入ってきた
私は宛てメが3桁だった頃から
様々なメールを読んで
共感とか反感とか持ってきたけど
あなたの宛てメが一番…
素直に納得できました
ななしさん
それでも「生きてくれ」と叫びたい、それが人間なんじゃないのかな。自分の言葉がどんなに無力で偽善的だってわかっていても。
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小瓶主さんの想いを優しく受け止めてあげてください