この間まで腕を切っていた。今はもう切ってない。傷もほぼ治って、目立つこともない。
何も言い出せない時期だった。
母が病気になったのは初めてで、だから長女の私はしっかりしていなくちゃいけなくて、家事だって文句言わずに全部やって、みんなの話を聞いたり、安心させてあげなくちゃいけなかった。
近所の人だって母の知り合いだって皆口を揃えて言っていた。
お母さんの為にも頑張ってあげてね。
周りの空気から察するに、あの場でとりあえず必要だったのは「いい子」だった。私じゃなかった。
違う人間になるのは結構、疲れた。私は「いい子」じゃない自分がまだ生きているかを確認するように、その時期は毎日のように切っていた。
お母さんが病院から帰ってきたとき、私の自傷はピタリと止んだ。
演じる必要がなくなったから。
自傷は自分を傷つける、それだけの行為だと、意味が分からないと思っていた。
でも、実際私はどうしても自分を殺さなければいけなかった時、自傷に「助けられた」と思った。
灰色の新しいカッター
まだ自分の部屋にある
もし私が持ち合わせていない性質が求められたその時は、私はまたあれを使って暴走する心を眠らせてしまおうと思う。