僕の現在位置です
その日は子どもと1時間ぐらい触れ合った。
さまざまな理由でふだん通常学級に通っていない子たちが、プレイルームに集まる。
日ごろ会っている子は僕がルームに現れたと知るや、いつも満面の笑みで迎えてくれる。
そうして「ぎゅーしよっか! ぎゅーー」と抱擁を交わす、それが約束。
おはじきや、色とりどりのセロファンで作った飾りが大好きな彼女。
窓際にある本箱の上に陽が差している日には、それらを持っていって一緒にキラキラさせて遊ぶ。
水の入ったボトルを手前に置くと、レンズ効果でおはじきの柄が大きく見える。
それを眺めるのが今のお気に入りみたいだ。
しばらく前から続けているボール運びレース。今回は他の子たちと真剣勝負。
体のバランスを崩しやすいから、いつでも抱きかかえられるようにすぐそばで待ち構えている。
前よりも欲が出てきたのか、2着でゴール。
⭕️❌️や指差しのカードを、僕が床にバラバラっと落としただけでもはしゃいで笑う。
言葉でのコミュニケーションは難しいけれど、こちらの思いが伝わっているのがわかる。
「想像してごらん、彼女にはこの世界がどのように見えているのかな」。
黒目がちのつぶらな瞳に映る窓枠の銀色が、僕にそう問いかけているような気がした。
◇
地下🅿️からクルマを出し、文具店の入るビルへ向かう。
(スッキリしない天気だなぁ。頭痛が始まりそうだ)
目の前の信号が赤になって減速させたとき、雨粒がガラスにポツッと当たった。
あぁ、降ってきたか。
ビルそばのパーキング・メーターに縦列駐車して、小雨の中を傘を差さずに歩く。
降りはじめ特有の、地面の埃が舞う匂いがした。
小学生の頃、農道みたいな一本道で突然の夕立に襲われたときのこと。
激しく打ち付ける大粒の雨に濡れ、誰にも頼れない不安と焦燥感はいつしか恐怖に変わって、わぁっと泣きながら玄関を目指して必死で駆けた。
あの時にもたしかに感じた土埃の立つ匂い。
嫌な記憶と結びついているそれがどうにも苦手なんだ。
伝票と引き換えにブレンを受け取って、そそくさとクルマに戻って精算した。
新調したカーナビにはまだ全然慣れていない。
それでも自宅の登録と、音声認識機能のセットアップだけは終わらせておいたから、「ハーイ!彩速。自宅に帰る」と喋ればパパッと案内開始。ウルトラスムース。
クラリオンと似ているところもあるし、あとは時間の問題かな。
首都高が混んじゃって左足が忙しい。あーら、と呟きながらラジオを流す。
ノロノロ走っていると、左側の防音壁に“静かに坊や”が見えてきた。
坊や1 坊や2
キラキラ星の下、ぽんぽん付きのナイトキャップを被ってお手々をグーにして、おくるみに包まれ眠る坊や……。
もう可愛いのなんのって。
この可愛さ、わからない!?!?(熱弁)
その形から、一部では“ウインナー坊や”とも呼ばれているらしく、言われてみれば……まあウインナーにも見えるか。
僕が初めて看板を見たときはやっぱり「おくるみ」のイメージだったなぁ。
“静かに坊や”は全国でいろいろなパターンが生息確認されているけれど、おくるみに包まれた坊やは僕の秘かな推しキャラなのだ。
この子をデザインした人に敬礼。
ちょっと時間かかって帰りが遅くなってしまったな。
でも頭痛が出なくて助かったし、思いを巡らすこともできてトータルではいい日だったかな。
ぐっすり眠ろう。
♪The Nightfly / Donald Fagen
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