とぼとぼ歩いてるうちにCちゃんの部屋まで戻ってきた。
道中の記憶がないけど、無意識のうちにちゃんとたどり着くあたり、人間の帰巣本能ってやっぱりすごい。
「疲れた? ちょっと遅かったね」
ルームウェアに着替えた彼女に荷物を預ける。
「ごめん。クルマ入れるのに手間取ってた」
玄関先に運んでおいた袋の荷物は片付けられて、小綺麗な短い廊下に一瞬、視線が向かう。
「そっか。お疲れ様。ささ、エプロンも出してあるから早くはやく~」
僕のバッグを抱えた彼女は上がり框のところで踵を返し、浮き立った様子でキッチンへ消えてゆく。
大学で出会ったときに感じた、あの小動物みたいな雰囲気がそのままだ。それがわかるだけでも頬が緩む。
◇
流し台の脇には今夜の献立に使う食材がずらりと並ぶ。一緒にごはんを作るのも久しぶりだから、きっと張り切ってるんだろう。
チェアに目をやると、緩やかに畳まれたエプロンが掛かっていた。
前にCちゃんと揚げ物して、けっこう盛大に油がハネてしまったことがある。
「エプロンあったほうがいいかな」って、僕の好みの色を探して、緑系カーキのやつを選んでくれた。ソムリエスタイルでも着られる優れモノ。
「あ。着てくれてる。似合うね。私も久しぶりに着てみた」
「似合ってるよ。もう随分長く使ってるって言ってたよね」
「そうなの。大学入る前に買ったから年季入ってるよー」
「え、じゃあ20年ぐらいになるんだ。でも綺麗に着てるよ。やっぱり性格が出るのかな」
「そうかもね。ふふ」
茹で物と焼き物と炒め物があるので、二人で同時進行すれば時短になる行程を整理する。
包丁まな板は僕が、鍋と火はCちゃんが担当。
僕は何度か作ってるし、自分で煮たり焼いたりできるほうが彼女も楽しいはずだし。
「じゃ、始めよっか」
♪煙はいつもの席で吐く / 安藤裕子
お返事がもらえると小瓶主さんはとてもうれしいと思います
▶ お返事の注意事項