「このようなことが起こっているということは、日本に住んでいると忘れてしまいがちです。」
スピーチの内容を呟きながら、パイプ椅子に腰掛けなおす。
今日はオーディションの当日だった。
会場に一番乗りで来てしまったため、緊張しすぎた奴みたいで少し恥ずかしい。
「あれ、天羽いんじゃん。」
自分にかけられた言葉だと思い、返事をしようと振り向きかけた。
だが、悪い気配を察して、体を完全に向けなかったのは、どうやら正しかったようだ。
「げ、何でいんだよ。これ以上内申ほしいのかよ。」
「正直あいつ性格悪ぃよな。勉強しかできないくせに偉そうでよ。」
「お願いだから落ちてくんねえかなー。」
俺が煙たがられているのは、前から知っていた。
でも、それがこのタイミングで表面化するとは…。
さすがの俺も傷つかないわけじゃないが、今はそれとは違う「怒り」が湧いてきた。
弁論大会は自分の信念を語りに来る場所のはずなのに、そのオーディション前に人の悪口を言ってどうするのだ。
自分を傷つけられることよりも、自分の信念をぶつけに来た場所を汚される方が悔しかった。
こんな体育会系の思いがあることに薄く笑いながら、心を落ち着ける。
と、肩に何か感触があった。
「設楽先生。」
「あんま気にすんな。それより、目の前のことだけに集中しろ。」
「…いいんですか、生徒に肩入れして。」
「あいにく俺に審査の権利はないからね。安心してくれ。」
「なら良いんですけど。」
先生と話していると、心がいつものペースに戻っていく気がする。
これなら、行ける。
「それでは、オーディションを開始します。」
あまり他者の影響を受けたくないので、できる限り聞かないようにした。
目を閉じ、自分の支えとなる人たちの顔を思い描く。
父さん。母さん。設楽先生。明來。アルビナ。
人に比べると少ないかもしれないが、数なんて正直どうでもいい。
俺はそれだけ、みんなのことを深く大切にしているから。
…なあ、アルビナ。
俺は次会った時、アルビナと小指を絡められるようになりたいんだ。
だからもう少し、待っていてくれ。
「それでは、次の方。2年3組、天羽瑠唯さん。」
「はい。」
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