炎症の数値が下がったらしい。
これなら今週退院できるかもな、と先生が言う。
いつですかと聞いてみるがまだハッキリとは言えないと濁される。
とはいえ退院の希望が出てきたことは嬉しい。
そんな喜びもつかの間、家族から連絡が来る。
6月の入院費の請求書。
およそ１週間で8万。
これに加えて7月の3週間分も請求される訳だ。
考えたくなかった現実に引き戻される。
お前を治す為にかかった金だ、払え。
つまりはそう言われている。
俺は後悔する。
救急車を呼んだのは月曜だ。
もし土曜の段階で呼んでいたら、
入院期間は短くなっただろうか？
後１週間、我慢していたら
入院期間が月を跨がなくなって、高額医療の上限額の8万そこそこで収まった可能性もある。
いくら後悔したところでこの現実は変わらない。
身体を治すことを考えろと言われた後、
身体が治れば今度は金の話。
分かってはいたが世知辛い。
この医療費と言うコストを支払うために
俺はまた働かなくてはならない。
そしてまた心か身体を壊して、入院するんだろうな…。
そうまでして生きる価値あるのかな。
今の俺に必要なもの。
金。金。金。
金で命は買えないが、金で助かる命はある。
俺の命は金で助けられた。
だから金を求められる。
金を払うために生かされたんだな俺は。
治療費を払った先に俺にはなにが残る？
美味いものは食いたいな。
でも食はその時しか満たしてくれない。
食べすぎればまた身体を壊す。
退院したら鰻食いに行こうと誘われてる。
確かにそれはいきたいな。
でも治療費の事を考えると出費は抑えたいな。
金がないから行けないって断るべきか？
そしたら奢ってくれるかもしれない。
けどそれは俺自身が許さない。
奢ってもらう正当性がない。
まぁ奢ってくれる可能性は低いだろうな。
残念ですね、また今度行きましょう。
って云われるだろうな。
同情するなら金をくれ。
俺はもう考えるのに疲れたよ。
生きる目的をくれ。
金のため以外の目的をくれ。
俺が俺として生きる理由をくれ。
普通の人は生きる理由なんて考えないんだろうな。
当たり前に生きて、それが普通なんだから、考える必要がない。
生きる理由を求めた時点で俺は負け組なんだ。
生きる理由に疑問を持った俺は、とても生きにくい。
いつからこうなったろうね。
俺の価値を説明して欲しいな。
金払う装置として以外の生きる理由を教えて欲しいな。
気付いてしまったんだ。
社会の歯車として生かされたんだと。
税金を納めるための部品として修理されたんだと。
そうでないなら、俺は何なんだろうね。
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