今、何してる?
どこに住んでいるんだろう?
もう他人になった兄ちゃん。
俺達ってさあ、あの親の下で随分頑張ったと思うよ。
もしさあ、みんながニコニコしている家だったらさあ、今頃兄ちゃんも俺も幸せに暮らしていると思うんだけどなあ。あくまでもしもの話だけどね。
俺さあ、実は兄ちゃんのこと大嫌いだった。
自分の思い通りにならないとすぐに怒るからね。
俺は力では勝てないのは分かっていたよ。
だから兄ちゃんに従うことに決めたんだ。
家の人に何されても従って、学校で何があっても耐えて。
悔しいけど、俺はそれに耐えられなかった。
17で一生治らない、心の病気になっちゃった。
俺はね、兄ちゃんと違って、ポンコツ人間だから耐えられなかったんだろうね。
そうならそうで、ギュッと抱き締めて欲しかった。話を聞いて欲しかった。
俺の下にもう一人弟がいれば、かわいがるのになあ。
俺は悪魔の子だ。
ボール投げでたったそれしか投げられないなら誰でも変に思うだろ。
性のことを聞かれて、答えたら、ばっかみてえ。
自分は取れもしない英語のテストの98点を見て、どうして100点じゃないんだと烈火のごとく怒ったり、他の時には勉強しないからこんな成績取るんだとか、お前にしては悪かったとか言いたい放題。誉めることはない。
まだまだいろいろあるけどね。
そんな兄ちゃんがどうして中学生に教えているの?
自分の弟を愛せない不甲斐ない兄ちゃんなのに?
ばっかみてえ。罪滅ぼしか?
自己満足じゃないの?そんなの?
ごまかしても子供たちは分かると思うよ。
まあね、いろいろとはあったよ兄ちゃんとは。
一度聞いたことあったよね?
勇気を出して聞いたんだ。
兄ちゃんに。性のことについて。
なんだ。兄ちゃんだって普通の男じゃん。
昔ね、聞いたんだ。
働いていた頃の俺って輝いていたって言っていたらしいね。
それってどういう意味だろう?
いい顔していて眩しかったってこと?
俺の家に来たことあったね。
その時の家って汗臭かったろ?
兄ちゃんにこう聞いてみたいな。
その汗って、働いている男性のいい汗の臭いってこと?
俺ね、兄ちゃんとはこういう関係になりたかったんだ。
普通に学校出て、普通に働くようになってさ。
普通に好きな人が出来て、普通に結婚してさ。
普通に子供が生まれてさ。
たまに会ったらさ、酒でも飲みながらバカ話してさ。
一緒にランニングしたり、キャッチボールしたり、体動かしたり。
疲れたら一緒の部屋でイビキかきながら寝てさ。
起きたら一緒にご飯食べてさ。
食べ終わったら、好きな人のこととか話してさ。
もちろん男同士の話もしてさ。
いっつもお互いにニコニコしていてさ。
お互いがお互いを尊敬しあっていてさ...
そんな関係になれたらどれだけいいだろうって何回考えたか分からないよ。
俺はね、兄ちゃんに最後の最後まで期待していたんだよ。
たとえどんなことを言われても、どんな仕打ちを受けても。
兄ちゃんは兄ちゃんだからね。
血を分けた、俺のたった一人の兄ちゃんだからね。
俺にとって兄ちゃんはヒーローなんだよ。
世界一の兄ちゃんなんだよ。
一回でいいからギュッと抱き締めて欲しかった。
兄ちゃん。俺がいて一杯苦労したろ?俺がいて嫌な思い一杯したろ?俺がいない方が幸せだったかな?
でもね、俺はね兄ちゃんの弟で幸せだったと思うんだ。俺が嫌いなのは、互いにいがみ合う醜い人の心。
もしさあ、生まれ変わったとしても、また一緒になれるといいなあ。
その時はね、誰よりも先に兄ちゃんに彼女紹介するよ。だから兄ちゃんも彼女紹介してね。
ずっと大好きだったよ。
今は会えない兄ちゃんへ。