先輩がそこで泣いていても、私は手を差し伸べられない。あの子みたいに背中をさすることさえできない。
自分の領域に軽く踏み入れられるのが嫌いで、先輩もそうなんじゃないかって思ってしまうから。私はみんなの前で泣けない。人前で泣くのは、カッコ悪いって小学生の頃から、いや、妹に物心がついた頃から自分に言い聞かせてきたから。
だから、私の前で泣く先輩になんて言葉をかけるのが正解なのかわからなくて、差し伸べたいと思った手は行き場をなくして握りしめるだけで。
勝手に幻想のように思っている先輩の体に軽々しく触れることは私にはできない。先輩に嫌われたくないし、先輩のことを知っていくのが怖いから。自傷行為をしていると他の先輩に教えてもらって、いつもセーターで隠れている手首を見るのが怖い。
いつもへらへらと笑っている先輩が、一人で自傷行為をして凌いでいる先輩が、人前で泣くなんて。きっと私が普段周りで見るような悩みを抱えている子たちにかける、本心ではなく、私だけのマニュアルの言葉をかけても、救われない。私も、先輩も。
結局は、いつも先輩にベタベタ触っている気色の悪い同輩の方が先輩にとって救いなのではないか、と思い出す。でも、体育座りをしていると私の腕の上に頭を預けてくる先輩に、その同輩にしていることとは違うものを感じて、戸惑ってしまう。度々見え隠れする先輩の暗い部分に私が少しだけ踏み入れようとしても良いのか。背中をさすっても良いのか。
いじられキャラの私なんかがする行動なんて全部ネタに見えるかもしれない。それでも、私のこの思いが少しでも誠意を持って先輩に届くようにと願わずにはいられない。
あといっかげつしか一緒にいれないから、せめてと。
私の台本を差し出す。
「どうか、これ、使ってください。」
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小瓶主さんの想いを優しく受け止めてあげてください
麻未
あんちゃんさんっていうとなんか変だからあんちゃんって呼ばせてもらうね。
あんちゃんはとっても優しいんだね。
とってもとっても先輩のこと思ってるって心から伝わってくるよ。
あんちゃんが大丈夫って言うならその先輩に声をかけてあげたらいいんじゃない？もしかしたら嫌かもって思うかもしれないけど、でも、まずはあんちゃんが先輩のことを思ってるってことが伝わるんじゃないかな…？
先輩に気持ちが届くといいね！
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