私の推しは、かわいい。
ふわふわとした見た目で、猫口で、猫のぬいぐるみを抱いている。
名前もかわいい。叶(かなえ)、なんて名前は、ふわふわとした見た目にピッタリだ。
それに加えて、自己紹介文は「突然天使の如く舞い降りてきた超癒し系男子」から始まる。正直言って怪文書。考えた人は多分ヤバい。
配信サイトで活動している配信者、ライバーさんだ。
最初私は、女ウケを狙ってそうな見た目と自己紹介文のその人が好きじゃなかった。さらに言うと、その人と同時にデビューした百合好きおっさん系女子の方が気になっていた。
その人のグループの名前にゲーマーズが入っていたから、どうせふわふわしたゲームをやって女性リスナーにキャーキャー言ってもらうのだろうと思っていた。
その時の私は、色々あって性別通りが嫌いだった。
女ウケしそうなものは避け、男ウケしそうなものに飛びつく人間だった。
しかしその人は、初配信でバトルロワイヤルゲーム、沢山のプレイヤーが、最後の一人になるまで殺しあうゲームを9時間も配信した。
私は少し驚いた。虫も殺さないような顔と声をしたその人は、私が予想していた人物とは大きくかけ離れていた。
私が少し興味を持って、空き時間にチラ見している間、彼は毎日配信していた。彼はゲームが上手かった。声も聞きやすいし、根性もある。
同期の百合女子が中々配信出来ない間も、ひたすら配信していた。本人曰く、そこには義務感もあったらしい。
二人はそのグループの一期生だった。彼はそのグループを、自分達の存在を皆に知らせるかのように、精力的に活動していた。
ある時彼は、とある配信サイトの公式番組にお呼ばれされた。そのサイトとゲームを知っていればほとんどが知っている番組に、彼らの枠組みの中で初めて出演することになった。
彼が、不安がっている事を知っていた。配信で漏らした本音は、全て聞いていた。
番組は、完璧だった。一位にはなれなかったが、見せ場はあった。司会の人も出演者も優しかった。出演者の人とのコラボの約束まで取り付けた。
そんなチャンスを逃さない賢い彼の、本番後に漏らした、心底安心した、嬉しそうな、「楽しかった」を。
私がただのリスナーから、その人のファンになった瞬間を、
私は、今でも忘れない。
私の推しは、根性もあってプライドも結構高い。負けず嫌いな努力家。カッコいい。
だけど怒る事はあんまりない。待ち合わせで5時間以上遅刻されたのに怒らなかったくらい。
大体のゲームは上手くて、配信がダレる事はあんまりない。すごい。
後輩も同僚も大好きで、基本甘い。面倒見がいい、みんなのにいやんだ。
賢くて頭も回るけど学力は無くて、学力テストでは下の方(とある学力テストではA.B.CのCランクに入って、Cやん、なんて呼ばれていた)。
しょーもない下ネタが好きで、下ネタを詰め込んだような荒らしをスルー出来ず爆笑するような人だ。ちなみにダジャレも厨二病っぽい感じのカッコいいものも好き。
実は結構なビビりで、怖くなると饒舌になる。
そして、寂しがり。コメントも無く一人で配信しなければならない大会などの状況になると、一気に弱体化する。
今では沢山の公式番組に出演して、沢山のコラボも経験して、あの時の共演者とも想像できないほどに仲良くなった彼の、あんな声を聞ける事はもう無いと思う。
「飄々としている」
「何でも出来る人」
「本番に強い」
「サイコパス」
「聖人」
「女リスナー多い」
なんてよく言われている彼だが、それを言っている人は、実は彼が黒い服に洗剤と間違えて漂白剤をかけた事があるのも、実は8割以上が男リスナーである事も、今彼を見ている人ですら半分も知らないであろうあの声も、きっと知らない。
まあ、つまり。
私の推しは、かわいい。