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さようなら、私は君を愛してしまったみたい。

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 人を愛してしまった。出会ったころはこんなことになるなんて思いもよらなかった。…いや、本当はいつかこうなってしまうんだろうと、はじめからどこかで分かっていたような気もする。

 桜が咲く頃、真新しい環境で君に初めて出会った。君に対して、なんだか懐かしさのような、安心感のような、不思議な感覚だった。同時に私は君を美しい、素敵だと思った。…それがちょっと悔しかった。
 私たちが仲良くなるまでにそれほど時間は必要なかった。君はよくしゃべり面白くて、仕事もできて賢くて、大きな目標を持って努力していて、でもプライドが高くて人に対して少し閉ざしていて。私は君と違って鈍臭いやつだけど、なぜかそんな君がどこか自分と似ているような気がしていたな。君に興味を持った私は、一日が終わったあと、沢山君に話しかけた。今思えばちょっとしつこかったかな、ごめんね。でも、最初こそ私を少し警戒していた様子の君は、そのうち私にいろいろ話してくれるようになった。いつも遅く残って一緒に勉強してくれて嬉しいと他の人にも言っていたみたいで、私も嬉しかった。

 君は夜歩くのが好きだったね。私も夜歩くのが好きだったから、当然君の歩く景色に興味を持って、一緒に歩こうと声をかけた。いつのまにか週1回、一緒に歩くのが日課みたいになった。一緒に夜ご飯を食べて、引っ越してきたばかりのこの街を夜な夜な探索する。この街はありふれた田舎町で、夜は歩くには暗すぎたけど、私と君の間には静けさとお互いの声しか存在していなくて心地よかった。私たちはいろいろな話をした。今までの人生のこと、がんばってきたこと、家族のこと友達のこと、仕事のこと、将来のこと…。人間関係の中で疲弊していた私たちは、「軽い関係がいいよね」なんて、まだ何も知らずに話して笑っていたっけ。
 一方、魅力的で素敵な君だったから、私の好奇心が恋になるのは必然、時間の問題だった。入道雲が生まれる頃、暖かい夜、私は君を呼び出して告白したよね。私は無鉄砲な癖に臆病で、言葉を言うまでに時間がかかってしまって申し訳なかったな。やっと絞り出した「好きです、付き合ってください」、君は「え、まじか」と驚いた顔だった。君は、私とは今のところ友達でいたいけど、これをきっかけに離れてしまって友達でなくなってしまうのは嫌だ、と言ってくれた。…つまりは振られたんだけど、私はなんか嬉しかった。長年性的な文脈で見られ扱われることが多かった私は、むしろ恋愛感情を君に抱いてしまったことで、自分もそっち側なんじゃないかって罪悪感を覚えていたからかも。君が、私を振った上で仲良くしたいと言ってくれたことに救われたんだ。

 それからも私たちは夜歩きやらドライブやら、続けたね。もう好きバレってやつをしている私だったから、思い切ってデートに誘ってみたりもした。いつのまにか月2、3回、丸1日を一緒に過ごすほど一緒にいた。その他にも、仕事で傷つくことがあれば君は私を心配して話を聞いて励ましてくれたし、私が不安なときにいつもゆるっとした大らかな態度で、私が落ち着くまで側にいてくれたよね。私が不安を目の前にしていたとき、「お守り」と言って手渡してくれたキズパワーパッド、まだ大事にとってあるんだ。
 冬、私はもう一度君に告白したな。メッセージで不器用に予告までして、デートまで誘って。当日、おしゃれして来てくれた君は、いつも以上に素敵で。私はドキドキしたのを隠したくて、少しでも余裕でいたくて、いつも通り振る舞おうって頑張っていた。君はやっぱり振ったけど、私はまた安心した。私は君の言った通り、変なやつなのかもしれない笑。

 雪解けの頃、私は無自覚のうちに君を傷つけてしまった。意図せず、君が努力していたことを踏み躙ってしまった。君はかなり怒っていたようだけど、私はなぜか気がつけなかった。それで、君からその話はやめてくれと言われてはじめて気がついた。メッセージ上のやりとりだったから、私は君にすぐに電話をかけて謝った。君は私が自分の気持ちに気づいてくれなかったこと、かなり怒りを覚えている様子だった。私はもはや何も言えず、静かに聞くことしかできなかった。そのとき君が話してくれた、自分の目標を達成するために血の滲むような努力をしていること、それでも報われないかもしれないこと、表には出さないけど本当は大きな不安を抱えていること。そして、自分が信頼できる人は本当はほとんどいないということも。私は君にとって数少ない信頼できる人だったみたい。「君(私)は“転落”しないでよ」って、君らしい、少し上からな目線で言ってきたよね。大して一生懸命にも生きてこなかった私に君の痛みを理解することは難しかったけど、この日の君の言葉一つ一つが今も心に刺さっている。

 それからも私たち何事もなかったかのように続けようとしたけど、少しずつ関係がギクシャクして離れていくのは分かっていた。
 桜が終わる頃、決定打だった。君の私から距離をとったり詰めたりする態度に混乱して、どこか適当にされている気がしてしまって、他愛もないチャットのやりとりの中で、私は遠回しに、けどかなり皮肉的に君を非難した。君は一気に閉した。私は謝ったけど当然受け取られるはずもなく。それから私たちが関わることはほとんどなくなったね。それでも私が仕事で弱り果てているとき、休むように声をかけてくれたり、すごい嬉しかったんだ。

 あれからもう随分経つけど、結局また関わることはなかったな。最近では君は私を見るたび怯えたような表情をするか、固まるか、何も言わずに逃げるように去ってしまうか。ずっとほとんどお互い無視だったのに、ここ最近、私が無理して不用意に近づいて話しかけたり、君の前で何も感じていないように振る舞ってみたりしていたことが、もしかしたら君の神経をまた傷つけのかもしれない。

 君と離れてから、私は自分と向き合ったよ。幼少期のいじめ、両親や元恋人との依存関係、性被害やトラウマ。その中で形成された、自分の感情を無視していて生きる、自己否定が強くて他人軸な私。君と健全な関係を築くには私はまだ幼すぎた。毎晩泣いて生活もままならなかったけど、私は本当の私を今、少しずつ取り戻しているよ。

 私、君が不安になったりストレスがかかったりすると同僚の悪口をたくさん言う癖や、淡々として見えるのに感情が激しいところ、ちょっと他の人を見下しているところ、少し苦手だった。でも、そんなところも君の本質的な繊細さや感受性の豊かさ、優しさ、賢さ、努力を怠らない強さ、嘘の付けなさ、そこから来ているって感じていた。私は君のそういうところや、一生懸命勉強している姿、早口でちょっと舌足らずなしゃべり方、笑った顔、少し不機嫌なときの横顔、お腹空いてると機嫌悪いのに、美味しいものを食べるとすぐに機嫌良くなるところも、全部全部大好きでした。

 次の雪解けの頃、私たちはそれぞれこの街を離れて遠く別々の場所へいくね。君がいるこの街で過ごせる時間も残りわずかになったけど、まだ毎日泣いているんだけど、きっと私はもう大丈夫。もう君に不用意に近づくことも話しかけることもしないよ。そのときまでは時々君の視界に入るかもしれないけど許してね。ここから先、私たちの人生が交わることは二度とないと思うけど、そしてそれは今の私にとっては死ぬよりつらいことなんだけど、君が穏やかに過ごすことができればそれが一番いいなって思う。
 多分ね、私の定義が間違っていなければ、これが人を愛するということなんだと思う。私は君を愛してしまったみたい。ごめんね、はじめの私たちが望んだ軽い関係のままではいられなかった、君にこんなにも重い感情を乗せてしまった。

 この手紙が絶対に君に届きませんように…そう思いながらなんでか小瓶に入れてネットの海に流してしまったけど。やっぱり私は中途半端なやつだよなぁ。
 そろそろ最後になるけど、あの日の電話の向こうで少し泣きそうな声だった君の努力がどうか報われますように。大きな夢が、叶いますように。君がこれから先の人生も、毎日ささやかな幸せを感じられますように。

 この世で一番愛する人へ、届きませんように。

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