26542780.メンズメイク、そんな言葉を目にすることが増えましたね――私は別に化粧と云うほどのモノはしませんけれど、休日の朝には髭を整えてから始まる、そんな感じがあります。ついでに、眉のラインが上手く定まらない時は僅かに弱体化するような気もします。
今日は日の一番高くなる頃に、特別の用事も無く散歩に出ました――散歩なんてそんなものでしょうけれど。ぼんやりと並木道を歩いていたら、一葉の枯葉が鼻先を撫でて植え込みに落ちて行きました。言葉よりも先に冬を感じます。すぐ近くの煙草屋の軒先で、マルボロのメンソールは12mgと8mgのいづれが正義かを悶々と悩む。何故だか分かりませんが、冬は喉がひんやりする煙草が吸いたくなります。
そこから少し歩いて、ふと、うらぶれた家の庭に花壇を見つけて立ち止まってみると、ちょうど薄い木陰に植わったクレマチスはいじけたように少し萎れていて、けれども、その傍らのアネモネは華やかで、濃色の少ない季節の散歩では嬉しい発見です。
もう旬は少し過ぎてしまったのかもしれませんけれど、昔、学校からの帰り道、庭先にザクロの木がある家の側を通る時、落ちたばかりの実を拾って友人達と食べたていたことを、このあたりの時期は何となく思い出します。穏やかな記憶です。赤い果肉と、甘酸っぱいその味は、私にとっては……書くのがちょっと気恥ずかしい……/// その後、そんな気持ちは芽吹く前に地中で窒息してしまい、もうどこに埋まっているかも分からず、掘り返す必要も無くなってしまいました。
そんな懐かしい人の姿を不意に空目してしまうことがあって、それは或いは人混みの中であったり、或いは人気の無い公園のベンチであったり、兎に角、思いもよらない時に起こるのでした。こうも寒くなって来ますと、冬の幻が見えたりします。肩に触れない程度に切りそろえられた赤毛の人でした。
胸の奥でむず痒くなる、そんな心持ちになる時には、むしろ笑い飛ばして欲しくなります。皮肉屋の友人に声をかけて、喫茶店のソファでとりとめの無い会話の合間に、だらだらと私が昔の話をするのを、テーブルの向こうの彼女は薄笑いに口の端をゆがめて眺めている。ひとしきり話し終えると、
そんなに好きなら言ってくれば？
と明るく言うのですが、その目は変わらず笑ってる。今更なのよねぇ、と私がニコチンまみれの溜息を吐くと、
ほんと馬鹿、と喉の奥で笑ってる。私の言葉に一切の真剣さが無いと、そう笑ってもらえると安心します。
この人は私の大学時代の先輩ですが、今は地元で実家の農業を継いでいる。この地元と云うのが私の地元でもあり、小学校と中学校が同じで、幾らかの面識がありました。高校からは別になり、大学も違ったのですが、私が他の大学に訳あって出入りしていた折、たまたま誘われた飲み会で一緒になると云う偶然により再会しました。
身の丈は私と同じくらいあって、骨格はしっかりとしているから、私は仮に彼女と殴り合ったら――そんなことは無いでしょうけれど――きっと負ける。以前、飲み会の帰りに二人で駅まで歩いていた時、大外刈りをくらって植え込みに沈められたこともあります。
そんな茶飲み友達のことを考えながら、次第に目的の無い散歩にも飽きて、煎餅屋でコーヒーを飲んでさっさと帰りました。
お返事がもらえると小瓶主さんはとてもうれしいと思います
小瓶主さんの想いを優しく受け止めてあげてください
