小学校3年生の夏休み、母方の祖父母の家で昼寝をしていた。母が仕事に行く間弟と一緒に面倒を見てもらっていた。
いつも通り昼寝して目が覚めた瞬間、祖母の言葉が聞こえた。「○○(私)は父方の祖母に見た目がそっくりで可愛いと思えない。愛せない」と。
父方の祖母はお金にがめつくて、プライドが高くて、子供や孫の職業と学校でマウントを取るようなタイプ。それに加えて、すごくヒステリック。私も正直言って好きではない。
それでも小さい頃から可愛い可愛いと祖父母に言われて育った私はとてつもないショックに襲われて、起きていることがバレないように静かに涙を流したことを今でもよく覚えている。
それから私は祖父母とは何処かギクシャクした関係になった。なんで嘘をついてまで可愛がってくれるのかが本当に分からなかった。
中学に入ってから幼稚園時代の友達がいじめられていて凄く辛くて、思わず庇ってしまった。今思えば無駄な正義感だったと思う。だけど許せなくて友達のいじめと戦った。そしたら標的が私になった。そして中学には行かなくなった。
詳細は省くが、私は幼少期から父に虐待を受けていた。性格の歪んだ祖母にとてもよく似た父が嫌いで、悲しい人たちなんだなと思って仕方のないことだと思っていた。嫌いな血が入った自分がますます父方の祖母に似てくるのがすごく辛かった。
そんな私を母方の祖父母は受け入れてくれて、引っ越して祖父母の家の近くの中学に通い始めた。祖父は毎日送り迎えしてくれて、祖母は毎日嫌いな私にご飯を作ってくれた。
めちゃくちゃ良いマットレスを用意してくれたり、「これ、詐欺じゃないの?」って思うほど高い漢方薬を買い与えてくれたり。
修学旅行の前日に高熱を出した時には祖父が「修学旅行は休んで、ばあさんと三人で京都に旅行に行こう」なんて言ってくれた。このとき私は祖父母と旅行に行くのが心の底から嫌で、全力で拒絶してしまった。今ではすごく後悔している。
正直私はなんでこんなに良くしてくれるんだろうと不思議に思った。
私の顔が、性格が、体型が、血が憎くて仕方ないはずなのに。なんで塾にまで通わせてくれるんだろう。私は中卒で働くことを父に義務付けられていたのに。
高校は勉強した甲斐もあって、私立高校に入学。入学金も授業料も免除された。
高校は実家から通った。これ以上祖父母に迷惑をかけたくなかったからってのは建前で、愛されていないのに、嫌われているのにそばにいるなんて許されないと思ったから。
これは後になって知った話だが、私立高校のバカ高い制服代や修学旅行代は祖父母が払ってくれたらしい。
それから私は奨学金で大学、大学院に進み子供の頃諦めていた夢を叶えた。
正直言って母方の祖父母が中学時代に私を引き取ってくれなければ叶わなかった夢だ。中卒フリーターになるはずだった未来が変わったのは祖父母のおかげ。
嫌われていても会いたいからと、私は祖父が入院する病院に通い詰めたり、祖母に会いに行った。嫌われていたって別に良いじゃないかと吹っ切れたのは大学生の頃。
祖父は徳を積みすぎた人生の中で最後に、命が尊いものであることを教えてくれた。初任給で祖母にご飯を奢った帰り、祖母はとても喜んでくれて財布から万札を取り出してきて必死になって断った。
初めてのボーナスが入ったらまた祖母に奢ろうと思っていた矢先に、今度は祖母が亡くなった。
エイプリルフールに亡くなったので、母からの連絡はタチの悪い冗談だと思いたかった。でも冗談ではなかった。
今になって思うと私は母方の祖父母に愛されていたように思う。けれど自信がない。祖父母は本当に徳を積んだ素晴らしい人たちだから、愛がなくても育ててくれたのかもしれない。
これが愛じゃなかったら何なんだって思う。でも何度も何度も、小学3年生の夏に聞いたあの言葉がぐるぐると頭を掻き乱す。
私が母方の祖父母に見た目が似ていてたら、祖父母は苦しまずに済んだんじゃないだろうかと思うと涙が止まらない。
私の体に半分流れている父の血が憎い。
私は本当に愛されていたのかな。
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