目を開けますと、そこは何処かへ繋がる汽車の中のようでした。
腰掛けていた椅子には濡れたように真っ黒なビロードが張られ、ふかふかでとても良い座り心地でした。
天井には緻密な夜空の地図が描かれ、壁にはたくさんの星座が並んでいました。
薄暗い中ところどころをランプが照らし、何処か古めかしい雰囲気が漂っていました。
ここは何処かと窓を見ますと、そこには満天の星空が広がっておりました。
藍色や葡萄色や黒色が混じり合った上に、黄金の煌めきが散らばったその様は、とても美しいものでした。
何故ここに来てしまったのか、そんな動揺も忘れて見惚れていますと、誰かが近づいてまいりました。
「お隣失礼致します。」
そう断りますと、彼は猫背をかがめながらネクタイを緩めました。
「ええもちろん。貴方は何方からいらしたのです。」
「私ですか。そうですね、随分遠くから来たとでも言えましょうか。」
その曖昧な答えを聞きながら、二人して窓の外を見つめました。
「綺麗ですね。」
「ええ。私の居た場所では到底見られなかったでしょう。」
暫く見ていますと、不意に彼が口を開きました。
「貴方はこの列車が、何処へ繋がるかご存知なのですか。」
「いえ全く。貴方はどうです。」
するとふっと口元を綻ばせ、まるで子供に聞かせるように言いました。
「丁度いい。貴方は心が美しいからここに来れたのですね。」
なんのことかも分からず頬を赤らめていると、彼はスリーピースのジャケットを脱ぎながら語りだしました。
「私の友にも、夜空を走る列車に乗ったという者が居たのです。私は信じておりませんでしたがね。」
その途端、にわかにぱっと明るくなったかと思うと、ランプが幻燈を映し出しておりました。
「どうです。私の人生、乗りますか。」
静かに頷くと、ランプの火はいよいよ大きくなり、幻燈は二人をすっかり包みこんだのでした。
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