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これって何か意味があるのかな? 暗示? 記憶が夢に出てきたよ。

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昔あったことの記憶がそのまま夢にあらわれた。
あれは自分にとって、やっぱり大事なことだったのかな。

⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆─⋆

中学3年の夏。
吹奏楽コンクールが終わって、次の目標である文化祭ステージに向けて練習を重ねていた。
ある日の部活帰り、実家最寄りの停留所でバスを降りて、団地の中の公園を抜けようと歩いていたら子どもの泣き声がした。

公園といっても決して広くはなく、遊具も少ない。
かつて鉄棒があったと思しき場所には枯草だらけのプランターが置かれ、現存するのはタイヤ飛びと砂場、それに申し訳程度の古びた給水栓を残すのみだ。

そういう光景の中の話。
我ながらものすごく明晰な映像記憶だと思う。

公園に近づくにつれて泣き声が大きくなる。
もう結構な時間、泣いているようだった。
「あの子かな」
近くに親が付いているのかと思ったら、あれ、誰もいないみたい。もしや独りで来たのかな。

ちょっと心配になり様子を見てみる。
転んだか何かしたのだろう、左膝を擦りむいたようで脛まで血が伝ってしまっている。
そうしている間も子どもが泣き止むことはなく、思い切って傍まで寄って声を掛ける。

「どうしたの、痛くしちゃった?」
「うわぁーん」
「転んじゃったのか。痛いイタイだね。おうちの人は?」
「いーなーいぃー、うわぁぁーん」
「そっか、よしよし。今ね、お兄ちゃんがお膝やってあげるからね」

言いながら子どもの頭をポンポンとしてやると、威勢の良い泣き声がトーンダウンする。
「ひぐっ、えぐっ」そんなしゃくり泣きにも似た様子になるのを見て、僕は通学鞄の中の裁縫セットを見つけ、そこからピンセットを取り出した。

「お膝にちっちゃい石が刺さってるから、それだけ取っちゃおうね」
鈍色にびいろに光るそれが子どもの視界に入ったのか、みるみるうちに涙目になっていくのがわかった。
「だいじょうぶ、痛くしないから」
子どもとしっかり目線を合わせて微笑む。しばらく手を握ってからサッと膝の裏に手を添え、捲れかかった皮膚の下に入った小石たちを素早く取っていく。

「よし! 取れたよ。よくがんばりました」
もう一度ポンポンして、持っていたポケットティッシュで涙と鼻を拭ってやると、安心したのか以後泣くことはなかった。
「じゃあ、向こう行って水で洗おっか。歩ける?」
そう言うと、その子はコクッと頷いて僕のほうに手を伸ばしてきた。
(あぁ、可愛いな……)
ピンセットとティッシュを放り込んだ鞄を肩に掛けながら、その手を握ってやる。

古びた水栓の前へ到着。子どもの歩幅で1~2分か。
最後に水を出したのいつだっけ、って感じの栓だから水質とか若干心配したけれど、しばらくジャーと出しているうちに清水になったので大丈夫だろうと。
膝から脛も伝い落ちて足首の手前まで血が付いて、でも幸い靴下には染みてなかった。ほっ。

「くつ脱いで、くつ下も脱いじゃお。ね! 公園で転んじゃったの?」
「あそこ。タイヤでころんだ」
「あー、引っ掛けちゃったのか。そっかそっか」

貸した肩に手を置かせて、浮かせた左足から靴をスポンと取ってついでに靴下も脱がせた。
可愛いちっちゃな足。
「よぉし水を出すぞー! 覚悟しろぉー」
子どもがびっくりしないように、足先から甲にかけてちょろっと水を掛けてやると「きゃはは」と笑いながら応える。
真夏の火照った指先が気持ちよく冷えていった。

「最初、ちょっとだけしみるかも。がまんね」
傷の部分を念入りに洗い流していく。公園の砂には破傷風の菌が潜んでいることがあると、母親、そして小学校の担任から教えられた。
「まだ?」
「もうちょっと洗おう。バイ菌入って痛くなったら大変だからね」
「……わかったぁ」

なんて聞き分けの良い子なんだ。
こんなちっちゃいのに独りで遊びに出すような親のもとでこそ、子どもは賢くなっていくんだろうかなぁ……そんなことをふと思った。

傷を5分以上洗って、あんまり足が冷えてもあれなので、膝から下をきれいにしてからハンカチで水を取った。
足を拭いてあげたら、また「きゃははー」と騒いで楽しそうだった。くすぐったかったのかも。
靴下を履かせて、靴も履いて。僕も手を洗って元通り。
(持っていた絆創膏は傷を覆うには小さかったので使わなかった)

「傷がおっきいのと、公園で転んじゃったから、なるべく早くお医者さん行くんだよ。ちゃんとお母さんに言うんだよ」
「うん」
「じゃあ、そろそろお兄ちゃん行くね。お母さん来るの?」
「うん」
(本当かな……)

「わかった。お母さん来るまで、転ばないように遊ぶんだよ。じゃあね。またね」
最後にもう一度ポンポン。

僕が立膝からゆっくり体を起こすと、ほんの少し不安そうな目で見つめてくる。
きっと本当に不安なんだろう。
ずるずると引き延ばすことなく颯爽と去るほうがいい、直感でそう思った。
この子を悲しませないために。

「じゃ、またね」

背中を向けようとしたその時。

「おにーちゃん。ありがと」

大袈裟なぐらいにチッス、と挨拶して、僕はその場をあとにした。

⋆⋅⋅⋅⊱∘──────∘⊰⋅⋅⋅⋆─⋆

まぁざっとこんな記憶が夢の中で蘇って、鮮明な映像美でもって見せてくれた。
目覚めたとき、幼児の頭ポンポンして感じた髪の密度とか、猫っ毛の感触とか、頭皮の温度感みたいなものがすごくリアリティを伴っていたんだよなぁ。
何か意味があるのか、あるいは全然ないのかも分からないんだけど、今あの子は何してるのかなー、何歳になったのかなー、そんなことを思ったのだった。

あ、裁縫セットを持ち歩いてた理由は、制服のブレザーに付いてるワッペンが一度取れかかったことがあって、いつでもどこでも直せるようにってことと、クラスの友達にブレザーの裏地が破れたってやつがいたので、それを縫ってやるため。
(ミシンも良いけど、仕度と片付けが若干面倒……縫い目の仕上がりに目を瞑れば手縫いのほうが早い)

僕が母校を卒業して数年後に「手芸部」なる部活(中高合同)ができたらしいと聞いた。
あと数年遅く生まれてて、吹奏楽部がなかったら手芸部に入ってただろうなー。

そんなはなし。

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