色々解決したとはいえ、やっぱり気力は完全には戻ってこなかった。
やっぱりアルビナが死んだことは、相当なショックだったらしい。
他人事みたいな言い方なのは、実際話している時はそんな風に思ったことはなかったからだ。
失ってから大切さに気付くとは、よく言った話だ。
「いいや、取り敢えず勉強しよ…。」
俺の、良い癖でも悪い癖でもあるところ。
こんなだから、ガリ勉って陰口叩かれてんだろうな。
俺が一部の人間から煙たがられていることくらい、一応気づいている。
と、そこでコンコンと扉がノックされた。
「瑠唯、ちょっと良いか?」
ちょっと待って、どういうことだ。こんな展開あってたまるか。
「ごめん、もう一回整理して良い?」
「ああ。急に言ってしまったからな。」
混乱する頭で文章を組み立ててゆく。
「つまり、俺が寝る前につけてるアイマスクがVRゴーグルで、鏡の世界は仮想空間だったってこと?」
「そういうことだ。」
「え、じゃあアルビ…そこで会った人っていうのは。」
「全部架空の人物だ。」
つまり、アルビナなんて人物は居なかったってことになる。
そんなの、そんなの…。
「何で、そんなことしたの?」
「…私達が、瑠唯の将来を狭めてしまったと危惧した結果なんだ。」
そこから、父さんは語りだした。
「私や母さんは、ちょうど就職氷河期の時代だったんだ。だが、人より勉強ができた私達は、ちゃんとした職につけた。だから、自分の子供にも勉強ができるようになってほしかったんだ。」
就職氷河期。バブル経済が崩壊した直後、経費削減のために大量のリストラなどが行われた時代だったと歴史で習った。
「でもな、きっとやりすぎたんだ。」
そういった父さんの顔には、深い後悔が刻まれていた。
「昔、お前と少し揉めた時、『僕は勉強ができなきゃ価値がない』って言ってたんだ。私はそれがショックで、このままじゃいかんと思ったんだ。」
少しも覚えていないけど、きっと当時の本心なのだ。
なぜ言い切れるかといえば、今もその思いは変わっていないからだ。
「知り合いが、仮想現実によるコミュニティをつくるプロジェクトを進めていてな。旧知のよしみで、実験体となる代わりに貸してもらったんだ。」
「そこで、何で僕に使わせたの?そこだけわからないんだよ。」
すると、父さんは優しい顔をした。
「瑠唯、アフガニスタン行ったことあったよな。瑠唯が興味を持ったことを応援してやりたくて。」
父さんは俺の頭に手を伸ばし、優しく撫でた。
「瑠唯が、仮想現実の誰かの価値観によって変われたというなら、私達は本当に嬉しいんだ。」
「…俺、変われた?」
「ああ、自分が変われたと思うなら、きっとな。」
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