2027年 7月25日 高校生活最初の夏休み初日。
今日は歴史的な猛暑日らしい。
点けっぱにしているテレビからは、記録的で災害級の猛暑日であるため外出は控えるよう警告を出していたから、相当暑いことぐらい私でもわかった。
そんな中、私はとあるサイトを見つけた。
それは、「宛名のないメール」だった...
私の頭には疑問符が浮かんでいた。
「こんなサイトあるんだぁ」と一人で何とも表せない感情を抱いた。
私は、吸い込まれるようにマウスカーソルを動かした。
別ページでは音楽を聴きながら、その未知なる世界を開いてみる。
いじめサイトか
そう思った。
いや、そう思っていた。
・・・
サイトをクリックしたその時、視界に違和感が生じた。
というより、世界の色相が変動し、天と地がひっくり返ったような感覚だった。
何が起きているのか頭が処理できずにいると、次はディスプレイが強く光り出した。
その白い光は、私を無理矢理連れ去るように包み込み、
私を別の場所へと転移させた。
気が付くと、私は広大な海の前に佇んでいた。
そよそよと涼しい海風が吹いていて、私の長い髪の毛を撫でていく。
夏の日差しが、私の体に向かって降り注いでくるような砂浜だった。
さっきまで、確かに自分の部屋にいたはずなのに。
どうして突然、こんな人気のないところに...?
しかし、不思議と心は穏やかだった。
初めてくる場所のはずなのに、妙に心地よくて、安心感に包まれていた。
しかし、いつまでもここにいるわけにもいかない。
私は、他に人がいないか少し移動してみることにした。
どれぐらい時間が経っただろうか。
いくら進み続けても、見えるのは海と、時折流れ着いている緑色の小瓶だけ。
貝殻が落ちていたり、小さな蟹が歩いていたりはしているものの、人影はおろか、過去に人が来ていた痕跡すら見えなかった。
前を見ても後ろを見ても、足跡一つついていなかった。
疲れが溜まり、ため息をつきながら落ちていた丸太に腰を落とす。
代わり映えのしない風景に、若干の嫌気と飽きを感じ始めていた。
しかし、突然ここに立っていて人っ子一人見当たらないこの状況でも、やはり焦りというものはなかった。
むしろ、いつかここに来る運命だったんじゃないかとさえ考え始めていた。
なんというか、この事象は必然だったのではないかと思う。
退屈なもんだからなんとなく流したその目線の先に、一本の小瓶が流れていた。
今まで流れていたものと同じ、緑色の小さな小瓶。
でも、その小瓶を見た時、私は確かに何かを感じ取っていた。
月並みな表現だが、全身に電撃が走るような"衝撃”だった。
その小瓶の手紙には、私が何としても知らなければならないようなことが綴られているような気がした。
いや、綴られている。
根拠はないが、揺るぎない確信だった。
私は、何かにとりつかれたように流れ着いていた小瓶へと手を伸ばし、ボトルの栓を開けた。
・・・
その小瓶には、一枚の手紙が入っていた。
その手紙は、谷折りにぱたりと閉じられており、裏面にはタイトルのようなものが書かれていた。
「同級生が空へと旅立ってしまいました。」
震えた文字でそう書かれていた。
やっぱり、この小瓶には私が知らなければならないことが綴られている。
そのとき、私の空虚な胸に痛みが生じた。
空っぽの心の奥底でズキンと何かが痛むような、まるで、思い当たる節があるような痛みだった。
私は、重たくなった胸を落ち着かせ、冷たいその手で手紙を開いた。
・・・
私には、好きな人がいました。
私は女ですが、好きになった人も女の子でした。
その人は、長い綺麗な黒髪で、とても可愛い人でした。
小学校の時から一緒で、昔は良く一緒に海を見に行きました。
砂浜でお城を作ったり、浅瀬で水遊びをしたりしました。
ですが、高校で彼女はいじめを受けてしまいました。
それは残酷で、陰惨で、眼を背けたくなるようなものだったそうです。
でも、私には笑顔を見せてくれていました。
とても不器用で、鈍感な私でも心の闇に気づいてしまうほどへたっぴな笑顔でした。
私は、「大丈夫?」と声をかけることはできませんでした。
もしかしたら、その言葉が余計に彼女を追いこんでしまうかもしれないと思ったからです。
でも、好きな人が日に日にやつれていくところを見たくなくて、私はこっそり先生に相談しました。
これが、私にできる唯一の手助けだと信じていたからです。
でも次の日、私は彼女に怒られてしまいました。
涙で顔を歪めて、憎悪に飲み込まれたような風貌でした。
なんで先生に言った。
なんで余計なことをしたんだ。
そう泣き叫びながら、牙をむき出しにしていました。
私は、泣きながら謝り、彼女を抱きしめました。
私が彼女を苦しめてしまった。
そのことの懺悔と贖罪の意も込めて、気づいたら腕の中に彼女を閉じ込めていました。
大丈夫、私がいるから大丈夫と、何度も唱えながら。
これで、彼女が救われるのなら。
ですが、数日前に彼女は死にました。
遺書を部屋に残して、踏切へと飛び込んだのです。
遺書には、「誰かに愛されたかった」と書かれていたそうです。
私は、もっとこの気持ちを声に出せばよかったと後悔しています。
私のこの気持ちを伝えていれば、彼女の命は救われたのでしょうか。
彼女の事を思っていたのに、その彼女を失ってしまった。
そして、失った直接的な原因は、きっと私にある。
あの子は、私の世界に色を付けてくれた大切な人だったのに。
私のせいで、彼女を死なせてしまった。
私はこれから、どう生きろというのでしょうか。
彼女のいない世界に、どう生きる意味を見出せばいいのでしょうか。
彼女に会いたい。
我儘なのはわかっているけれど、私も彼女のもとへ行きたい。
もう、生きたくない。
・・・
私は泣きながらその小瓶を最後まで読み進めた。
その涙の理由くらいすぐに分かった。
この体になってから、涙を流したのはこれが初めてだった。
なんでもっと早く気が付かなかったのだろうか。
いたじゃんか。すぐ近くに。
私のことを想ってくれていた人が。
なんで今まで気付かなかったのだろうか。
なんであの時、頭に浮かばなかったのだろうか。
そうか、そうだったのか。
私は、すべてを理解し、そして私の過去を呪った。
彼女の気持ちに早く気付いていれば、私は。
私は、けたたましく鳴り響く線路上に身を投げることなんてしなかったのに。
私は泣き崩れた。
手紙はもう、水に濡れて文字がかすれてしまっていた。
ただただ、泣き続けていた。
自分でも、何で泣いているのか、いろいろな考えが駆け巡りすぎてわからなくなっていた。
もう、完全にこの世から消えてしまいたい。
そう願った。
「もう、折角の可愛い顔が台無しだよ?」
聞き慣れた声がした。
今一番聞きたかった声だ。
まさかと思った。
嘘だと思った。
でも、確かに私の前に。
「二人で海に来たのなんて、いつぶりだろうね。」
そういって、君は優しい笑みをこぼした。
君の綺麗な指が、私の頬を撫でる。
涙で濡れた私の頬を、とても優しく、そして温かく包み込んでくれた。
・・・
私は呆然としていた。
きっと、すごく間の抜けた顔だったと思う。
君は私の視線に向かって、明るい笑顔を見せた。
「えへへ」
微笑む君をみて、胸がざわついていた。
動くはずのない心臓が、激しく鼓動する感覚があった。
私も、気づいていないだけで、もしかしたら。
「その手紙、読まれちゃったか~。ちょっと恥ずかしいや。」
そうやって照れる君を見て、この気持ちが推論から確信に変わった。
どうやら、私も同じだったみたいだ。
君との共通点が、また一つ増えたな。
「あの時はごめんね。私、考えなしに突っ走って、君を苦しめちゃった。」
そう言って、君は頭を下げた。
でも、私は君を咎めることはできなかった。
君にもう一度会えたというその喜びで胸がいっぱいだった。
「その手紙読んだってことは、私の気持ちも知っちゃったってことだよね。」
私は、静かに首を縦に振った。
「じゃあさ、期待してもいいのかな..?」
そう言って手をいじる君。
仕草の一つ一つがかわいらしく、愛おしかった。
私は、今までずっと勘違いをしていた。
その結果、私は君を傷つけてしまったんだ。
もしもこれが、神様の見せている夢だとしても。
もう君を悲しませたくないし、自分に嘘もつきたくない。
私のこの考えと、選択が君への贖罪となるのなら。
私は本望だ。
私は、静かで煩い胸に手を置いて、喜びの涙を浮かべながら、君へとお返事を送った。
とても爽やかな夏の日差しは、私たちに影を作らないでくれた。
・・・
[次のニュースです。
今日午前、女子高校生が踏切で普通電車に撥ねられ、死亡する事故がありました。
この事故で死亡した少女の通う高校では、6月にも一人の女子生徒が同じ踏切で普通電車に撥ねられる事故が発生しています。
警察はこの女子生徒との関連性と、通っていた学校とのトラブルなど、事故の詳細について調べています。
では、次のニュースです。]
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この物語は、とある方が考案してくださった創作企画によって制作されました。
考案者様、本当にありがとうございました。
考案者様の元の小瓶となります。
https://www.blindletter.com/view.html?id=226149
この物語はすべてフィクションです。
実在の人物、団体、事件などとは一切関係ありません。
また、この物語に、自殺を助長、促進させる意図はありません。
皆様に、幸があることを、心より願っております。
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初めての創作活動でいろいろと拙い部分はあるかと思いますが、私自身はとても楽しく想像の世界に浸れたのでとても満足しています。
私の好きな雰囲気を詰め込んで、ただ私の性癖を書き連ねただけですが、それでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
余談ですが、書いている途中で「なんか、ストーリーが少女レイみたいだな」と五回くらい思いました。
ネットで検索すればすぐ出てきますので、そちらも是非聴いてみてください。
とても素敵な曲ですので。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
/物語制作