なんかぶんぶんうるさい。
虫の音ってちょっとこわいよね。
窓の外に虫がいるんだろう。
ちょっと大きそう。
いま野趣あふれるうちの家の庭にはいろんな花が咲いている。
それに惹きつけられてきたやつだろう。
…それにしてもうるさい…
ロールスクリーンに虫の影。
もしかして、中にいたりする?
そーっ
窓と網戸の間にデブデブのミツバチさん。
ミツバチって一言で言ってもきっといっぱい種類あるよね。
家の庭を飛んでるのたちを見てて思う。
こんなに小さいのってくらい小さいものから、もうこれはミツバチとは言わないかなってくらいまで。色も薄い黄色から橙っぽいのまで。
どっから入ってきたんだろうね。
ぴちっと閉まっているのに。
でも網戸ってどうしても少し隙間ができてしまうの。そこからだろう。
そんなとこに入ってくるなんて、巣を作るとこでも探してたの?
それはちょっとこまるなあ。
窓と網戸の間でハチミツがとれるようになられてもねえ。
でもぶんぶんしちゃって出れないんだよね。
ドジな子だなあ。
そっと網戸や窓をずらす。
トントン、トントンと窓や網戸を軽く叩いて飛ぶのをうながす。
逆に動かなくなってしまった。
怖がられてる…
ガラスケースの中の標本みたいになってる。
よく見たらデブデブのミツバチさん
かわいい。
もういい。
そのうち動くでしょ。
いまは怖がるだけだから。
網戸をずらしたまま窓を閉めてロールスクリーンをふたたび下ろす。
ロールスクリーンに動かない影。
かわいい正体を見てしまった生き物の気配に、なんだか安心感。
井伏鱒二の山椒魚の気分になりそう。
むこうが蛙でわたしが山椒魚。
とか思ってたらあっさり飛んでいってしまうのね。
あなたにはやることがあるんだろうな。
いいよ。
あなたが色とりどりのお花の間を飛んでるのを思うから。
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