先輩に言いたい。
先輩は私に対して安心してますよね。他の後輩や私の同輩からあからさまに騒がれたりいじられたりすると、すぐに私に隠れる。それはとても嬉しいことではあるけれど、なんだか私だけ安全圏だと思われているのが悔しい。まあ同性の後輩だし、私がこんな感情抱いているなんてさらさら気づいていないんだろうけど。
私のことをすぐに褒めてくれて、信頼してくれる。でも、先輩は愛嬌があってみんなに愛される人。私は私でいじられキャラで、部長で、愛されキャラで、それなりに尊敬されている先輩で、1番可愛がられている後輩だから、みんなに同じように憧れて憧れられて好いて好かれなくてはいけない。どの先輩も同輩も後輩も贔屓しない。先輩も同じだから、真意は全く見えない。
だから、バレンタインであげた本命チョコもきっとみんなに配っている義理チョコだと思っているんでしょう。みんなに配ったおかしよりも4倍くらい高いけど、本命だと気づかれて引かれたくなくて、それでも特別なことに気づいて欲しくて渡した小さめの本命チョコ。前日はどうしようもなくそわそわして、いつもは塗らないくせにハンドクリームだのリップクリームだのを謎に丹念に塗り込み、当日は普段絶対に起きれないのに早起きして、初めて髪を巻いて、制服やセーターをブラッシングして、開門と同時に学校に行って先輩の登校を伺った。幸い早く登校してきた先輩は、私が教室の中を挙動不審に覗いていると「私ー?」と出てきてくれた。高三の先輩のメッセージカードの催促時期と重なっているからか、「怒られるかと思ったー」と笑う先輩を前に言いたかったことは全部飛んだ。先輩、もしよければ春休みどこか出かけませんか?あれだけ練習して、しかも演劇部の私は感情を押し込んで台詞を言うことなんて容易いはずなのに、どうしてもその一言が押し出せなかった。「あ、あ、えっと、これ…その、バレンタイン、なので…」やっとこれだけ絞り出した私に先輩は嬉しそうに笑って「ありがとう!!ホワイトデー返すね!!」と言って私は「は、はい」と言いながら逃げることしかできなかった。
そして今日、私の後輩が同じ先輩にチョコを渡しに行くところを見かけた。同輩を伴って。気にしないようにしても心の隅で独占欲が黒く渦巻く。大人げないし、そもそも先輩は誰もそんな目で見ていないのだと思う。でも、でもどうしても本命を渡したのが私だけなら良いのに、と思ってしまう。
きっと鈍感な先輩は「それ本命?」と聞かれても「えーわかんない。けど違うんじゃない?多分部活に配ってるんだよねー。わかんないけど。」とか笑って答えるのだろう。勝手な憶測だが。
気づいて欲しい。普段なら同輩を伴わないと先輩のところへ行けない私が1人で朝イチに渡したのが本命チョコだということ。でも、気づかれるのは気まずいから気づかないで欲しい。
私は全然安全圏なんかじゃないですよ。きっとどの同輩より後輩より黒くて汚い目であなたを見てます。絶対に気づかないでくださいね。本命チョコだと言うことも私の本性も。