ファミレスパラダイムシフト。
ファミレスは子供の頃の私にとって夢のような場所だった。
母の料理は勿論美味しかった。料理好きの母だった。しかし、そんな母でも流石に鉄板に乗ったガロニ付きのミックスグリルを作る事は出来ないし、何より、あのドリンクバーを用意する事は不可能だ。
ドリンクバー。幼かった私のオアシス。
甘いものの飲み過ぎはダメだよ、といつも口酸っぱくいう両親も、庶民感覚は持ち合わせており、飲み放題という言葉に弱かった。
私の大好きな飲み物は全部あったし、しかもそれらを混ぜても良いという大実験場。
“何故か”何度も席を立つのを恥ずかしがる両親の代わりに注ぎに行った事も数知れず。
特に私は、ホットドリンクを抽出できる機械から出てくる、家ではとても飲めない抹茶ラテが大好物だった。
休日の家族ドライブ中の私の頭の半分は大体ハンバーグ、ソーセージ、チキンステーキと抹茶ラテで埋まっていたのかもしれない。
ーーー
実家を出てから、久々に父母が会いにきた。一緒に適当な観光をし、買い出しに付き合って貰い、いざ帰る前に夕食をとなった。
近場にあったのはあの懐かしのファミレス。
私の提案に両親も一つ返事で頷き、その扉をくぐった。
何を頼むか。
両親が奢ってくれるというのであれば、その脛を齧るのに躊躇いは無い食いっ気が私にはあった。
期間限定のメニューも心惹かれたが、結局私が選んだのはミックスグリルと、ドリンクバーだった。
店員に注文をした後、早速懐かしの抹茶ラテを冷やかす事にした。
注がれる緑色の液体、ミルク、最後に謎の透明の液体。
席に戻り、微笑む両親の前で早速飲み込む。
ーー薄い。
何というか、“風味”の液体だ。
ミックスグリルも届いた。
うん、普通に美味しい。懐かしい味だ。
しかし、昼に私が連れて行った魚市場の寿司の方が、ずっと美味しかった。
抹茶ラテは、飲み干した後に溶け残りがあるわけでも無かった。
最初から、こういう味だったらしい。
「もうお腹いっぱい?他に注文は良いの?」
そう言った父の鬢には随分と白髪が増えたものだ、と思った。
「おかわりはしないの?気にしないでどんどん注ぎに行っておいで。」
そう言った母の目の小皺はこんなに多かったっけ、と思った。
何故か居た堪れなくなった私は、席を立ち、カフェラテを注ぐ事にした。
私なんぞずっとガキンチョだ、大人になんかなれねぇよ、とずっと自嘲してきた。
しかし、胃もたれする感覚と料理の味のもの足らなさ、それらは確かに自分が重ねてきた歳と経験、そして置いてきた、これから置いていくものを否が応でも感じさせられた。
そんな私のアンニュイなどつゆ知らず、母は父に一切れ残ったトンカツを譲っていた。
多分、私が進んであのファミレスに立ち寄る事は今後ないだろう。最早私を満たす事はできなくなったから。
しかし、それを思い出すときはいつでも甘い味がする。
ノスタルジアとは、こういうことか。
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ななしさん
素晴らしい文才です。自分の記憶にしてしまいたいくらい、幸せでいっぱいになりました。
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