昔の豪華客船をそのまま伊豆の海に浮かべてホテルにした、ホテルスカンジナビア。
ヨコハマのバンドホテルのシェル・ルーム、シェルガーデン。今はどちらももう無い。
当時、駿河湾に浮かんでいたスカンジナビア号には大きな年代物の革張りのル・コルビジェのソファーがあった。
当時の支配人はジャズが好きな人で、日本人女性歌手として初の、米ラジオ&レコード誌のジャズ・コンテンポラリー部門でランクインした伊藤君子さんのライブがあったりもした。
クラシックな内装の船の上で、若き日の旦那ちゃんと海を眺めながらお茶を飲んだり、食事をしたりした。
その頃うちにも何度か泊まりに来てくれた、当時ホテルスカンジナビアで働いていた、チロリアンの少女のように色白で髪と眼の色素の薄い可愛らしい女の子は、若くして病気で亡くなったそうだ。
明るくて素直で可愛くていい子だったな。
バゲットをスライスするのが早くて上手だった。
伝説のバンドホテルは淡谷のり子さんの"別れのブルース"や、五木ひろしさんの"よこはまたそがれ"などの曲の舞台にもなったホテルで、7階にシェルルームがあった。
当時まだ若かった私達はちょっと背伸びして、港の夜景を見ながらグラスを傾けた。
旧館を改造したライブハウス、シェルガーデンも。
まだ横須賀にはEMクラブの建物が残っていた頃。
今、バンドホテルのあった場所はドンキホーテになっている。
昼間はホテル・ニューグランドのラウンジでサンドウィッチと紅茶とか。
午後に紅茶セットを頼むと、大きなティーポットに入った紅茶が出て来て、ワゴンで運ばれて来る様々なプティ・フールから好きな物を2種類頼めた。
まるでごゆっくりどうぞと言うように、ティーポットにはたっぷり2杯分の紅茶が入っていた。
箱根の某ホテルの薔薇園で薔薇の咲き誇る時期に庭で楽しむアフタヌーンティーも優雅で好きだった。
サービス料を数%払っても、美しい空間と居心地の
良いサービス、そして味にもハズレがないという理由で、旦那ちゃんはそれらのホテルのバーやティールームなどが好きだった。当時の仕事柄もあったと思う。
その頃、その辺りに住んでいた私達は休みの日になるとドライブに出掛けて、それらのホテルや海に張り出したガラス張りの静かなカフェでお茶を飲んだりした。日常を忘れて、ひととき優雅な気分になれた。
スカンジナビア号は、老朽化して営業を終え、
伊豆の海から曳航されている途中に沈没してしまったのだそうだ。
もう役目は終えたよ。ゆっくり眠らせてくれ。
という気持ちだったのかもしれない。
今は海の底でゆっくり眠っているだろう。
おやすみ。お疲れ様。スカンジナビア号。