マッチを擦った
古びた軽い音が鳴る
薬頭とマッチ棒が燃える香りが立ち
セピアカラーの光が溢れる
小さな世界を満たしてゆく
洋燈に焔をうつす
まるで新たな命のように輝き始めた焔は
鼈甲色のガラスを着飾った
ラジオは曲名もわからないオーケストラを歌っている
黒く小さな身体から
壮大な世界を奏で
それでも謙虚に銀のアンテナを伸ばしている
ラジオもまた
洋燈の照らす世界に溶け込んだ
私もまたこの小さな世界で
自らの体温に身を沈め
焔を愛で
音楽を聴く
孤独と幸せが共に合間見え調和するのは
少なからず私は夜しか存じ上げない
人の喧騒から完全に逃れ
友の面影もしばし忘れるこの夜を
例え心の闇を思い起こす夜があろうと
時折来る夜と孤独の幸福を愛するのだ。