物心つくか、つかないかの頃から今もずっと変わらない情景。
居間から母の声が聞こえてくる。
日々の習慣としての、親戚との長電話。
体調のこと、テレビの内容、ご近所さんの話。
ふと急に声のボリュームが落ちる。
コソコソ、コソコソ。
私についての愚痴。
本人は聞こえないように小声で話しているつもり。
内容まで、全部聞こえている。
聞きたくなくても聞こえてくる。
居間から離れた自室にいても。
ああ、今日もまた始まった。
聞こえてますよと伝えたところで何も変わらない。
私が言い訳したところで何の意味もない。
娘が先方からどう思われるかなんて母親は気にも留めない。
聞くでもなく聞いている私の、身の置き所についても。
別に、どうでもいい。
何とでも、好きに言えばいい。
都合の悪い事は何もかも私の所為にすればいい。
聞きながら、そう思う。
長い間、ずっとそう思い続けてる。
身体の表面をピーラーで薄く削られ続けているような。
痛くないと言ったら嘘になる。
それで貴女、少しは気晴らしになりましたか。