綺麗なものを見ると、いつの間にか涙が頬を伝っている。
こんなに課題や部活に忙殺される日々になって、
受験から解放されて存在意義も失って退廃的な夜が続いて、
それでも美しいものは、日常の中に隠れている。
傘村トータさんの、ジグさんの、Eveさんの音楽は美しい。
電車の車窓から見えるクリスマスの装飾も、
通学路に棄てられている壊れた電子レンジも、
英語の教科書に載ってる難病の息子のために、母が消防士になるという彼の夢を死ぬ前に叶えさせる実話も、
専業主婦をやってた私の母が、努力して資格を取って医療従事者になって、もう年末だというのに忙しく働いて、
私は家で一人で家事を手伝っていたとき、帰ってきた母が買ってきたクリスマスケーキも、美しい。
先輩のファーストサーブのフォームも、背中のそり方が腕の伸ばし方が美しい。
近所のおばあちゃんをランニングのついでに訪ねたら、お正月だからとついたもちを手渡してくれたのも、
死のうと思ったとき、保護してくれた警察官の、もう大丈夫だよって言って笑ったその笑顔も。
勉強のやる気が出ないとき、いつも私が眺める左手首の消えない幾本もの白い傷も。
中学受験に全落ちしたときの、傷だから。
不良だったときいつも真っ向から戦おうとしてきた生徒指導の先生の真剣な顔も。
ランニングしてたら浴びる、年末の朝の何かがぴんと張った空気も。
海辺にあった透明のピアノの前で、私が弾いた即興の曲も、
9歳下の弟君が生まれた日、病院にいる母のためにお祝いにって小3の私が祖母と作った大きな雪だるま。
高校受験に合格した日、物心ついてからは初めてだろう、父とハグしたこと。
学校にどうしても行けなくて、母が作ってくれたお弁当をレンジであっためて食べること。
ふと窓を見たときの、平日の昼の青空。
クリスマスの贈り物に、祖母にお菓子を選んだこと。と、選んだ栗の焼き菓子の艶。
今はもう、いない愛してた二つ下の後輩の女の子の笑顔。
あなたがいなくなってもまだ、私があなたのことを大好きでいること。
すぐに泣いてしまうのは、あなたにも教えてあげられたらいいのにって思うからだろうか。
でも、いつかまたあなたにめぐり会ったら、たくさん教えてあげられるように、
こうやって心にとどめておくことも、それもまた、美かもしれない。