明日こそは頑張って起きようと思って、制服を布団の横に用意した。
明日こそは早く起きようと思って、九時半に布団に入った。
明日こそは遅刻しないようにしようと思って、苦い薬を飲んで眠りについた。
目が覚めたら、もう一時間目が終わろうとしていた。
一度はもう休んでしまおうって思った。
でもここで休んだらもう学校には一生行けなくなるのではという不安が頭をよぎって、
七時間目だけしか受けられなくても、いいや、部活しかいけなくなっても、
最悪片想い中のキャプテンに会いに行くだけのためにでも、学校には行かなきゃと思った。
駅まで行くためのバスの時間を調べて、遅刻しますと電話して、
朝ごはんも食べずに家を飛び出した。
重たい足を気合で動かして走った、蒸れたマスクが息苦しかった。
庭のバラの横を通ったとき、ぷつっと嫌な音がした。
振り返ると、大事にしていた定期入れのひもが切れていた。
あの日。合格発表で、高校に合格していると分かった日の帰り、母がたくさんのものを買ってくれた。
それらのひとつに、定期入れがあった。母と一緒に選んだ。水色に紺色の縁の、定期入れを買った。
私を突き動かしていた、細くてぴんと張った糸みたいなものが、壊れた定期入れと同じように断たれてしまったみたいだった。
家まで戻った。玄関で突っ立って泣いた。
母がやってきて、お小遣いいっぱい持ってるじゃない、土曜日にまた買えばいいでしょうと笑った。
そんなことしてないで次のバスの時間調べたら、って言いながら仕事に行く支度をしに戻った。
崩れて泣いた。
そういう問題じゃなかった。
何もしたくなくなった。
もう一度学校に電話をかけて、もう行きませんと伝えた。
休めると分かった瞬間、もっと辛くなってうずくまって泣いた。
母はお昼ご飯を食べながら、ドラマを見ていた。
横を通っても、目も合わせてはくれなかった。
親が仕事へ行った。
独りになって、ピアノを弾いた。ずっと。即興で曲を弾いた。
哀しい曲ができた。
我に返って、お腹が空いていることに気づいた。
母がせっかく作ってくれたお弁当、家でレンジであっためて食べる虚しさ。
それから妖怪ウォッチのゲームをした。このまえ緻密に組んだパーティーも、ぼうっとしていたせいでぼろぼろに崩された。
だからやめてしまった。
母が帰ってくるまでに、洗濯物をたたんだ。母はとても優しい人だ。でも最近疲れている。
ただでさえ病院の仕事が時代柄忙しいのに、私は朝起きられないし、弟は小学校でいじめられている。
わたしだけでもしっかりしないとな。
今日は散々だった。
でも、私は今夜も、
明日こそは頑張って起きれるように、制服を布団の横に置く。