自殺を決意した。
10代の頃から、自分は20歳くらいまでに自殺するのではないかと思っていた。その予感は当たりそうだ。
20歳を過ぎて、もうすぐ3年目。次の誕生日を迎えた後、気が向いた日に実行する。
自殺場所の下見、身辺整理、遺書作成。某公共放送の解約もしたいが、これは多分難しいだろう。
こう考え出すと、意外と準備する事が多くて、予定を大幅に過ぎるかもしれないな、と思う。まあ、何をやるにも腰が重いのはいつも通りだ。仕方がない。
昔から、自殺するなら雪山へ行くか、美しい景色が広がる崖からの飛び降りが良いと考えていた。
今回は崖を選択する。そろそろ紅葉が綺麗な時期だ。観光ついでに下見へ行くのが楽しみだ。気に入ったら何度でも行こう。死んでしまう前に。
自殺を決意した途端、心が穏やかになった。冗談抜きで、世界が美しく見えるようになった。
まあ、それが思い込みでしかない事は分かっている。先月までは悪天候続きだったが、やっと秋晴れが見られるようになり、冬に近付くにつれ空気も澄んできた。世界が以前より美しく見えるのは、そういう現実的な理由からだろう。
しかし、自分の命に期限を設ける事で、今を大切に生きようと思えるようになった事は確かだ。
何をやるにも、「自分は後2ヶ月程の命だ」と思えば、何だか何でもやれる気がしてくる。だからこそ自殺するのだが。
この社会で、これまで自殺を選んできた人々の中には、もしかすると今の自分と同じような思いを抱き、この世を去って行った方もいたのかもしれない、と勝手ながら想像させて頂く。
最近、仕事が嫌になっていた。職場は福利厚生がしっかりしており、自分を取り巻く人間関係は良好。
そんな良い環境で、私は新しい担当業務を覚えるにあたり苦戦した。それにより、コロナうつ気味だった精神に負担が掛かったのだろう。会社でメンタルが限界を迎え、泣き出してしまった。その日は周囲の勧めもあって早退した。その後電話のカウンセリングを受けたら、適応障害ではないかと言われた。今心療内科等へ行けば、そう診断が付くだろう、と。でも病院へ行くのは嫌だったから、カウンセラーの忠告に分かりましたとだけ言って、放っておく事にした。無理をせず、たまに有給を取る事にしようと。
しかしその判断は間違っていた。大人しく病院へ行ったり、休職の方向も考えれば良かった。
休職してしまえば、例えその期間中に自殺しても、同僚への迷惑を少しばかり抑えられたかも知れないと言うのに。シフト勤務の難しいところだ。ただでさえ人手が足りない部署で、しかも新しい担当業務に就いたばかりだ。今、いきなり自分が消えたら、シフト作成者はその抜けた穴を埋めるのに少しばかり頭を抱える事になるだろう。
やっと足りない人手を上手く回せる体制に移行しつつあったのに、死にやがってと思われるのかもしれない。
色々と考えてはみるが、死ぬ事に大した理由は無いらしい。
そもそも、生物が生命活動を続ける事に、そこに生きる意味は無い。生まれてしまったから生きる、ただそれだけの事に理由は無い。
だから死ぬ事にも、理由はいらないのだと気付いた。
強いて言うなら、自分のメンタルがあまりにクソ雑魚だからという理由が考えられる。
折れやすく、偏っていて、そのくせ色々な影響を受けやすい、難儀な性格。
そんな自分が、憂鬱で、薄暗くて、閉塞感漂うこの世界で、あと何十年生きるのかを考え出すと、本当に気が重いし、生きる事が億劫になってしまった。最近、１日１日がとても長く感じられるようになったから尚更だ。
こんな調子では、ここで自殺を見送っても、数年先により一層強い衝動が訪れる気がしてならない。より苦しい状況に見舞われるかもしれない。だから、早々に終わらせる方が良いとしか思えない。そして、そんな自分を変える事も望んでいない。自分に酔っているだけだと言う声が聞こえてきそうだ。でもそれで構わない。私は自殺以外の最期を望まない。
最期の日をシミュレーションしていると、ある事に気付く。それは、遺書の用意はしたくても、本当の死の間際で誰かと話をしたいとは思わないだろう、という事だ。いや、自殺者は多分そっちの方が多いんだろう。しかし、それなりに人に恵まれて生きてきた自覚はあるのだ。だから、最期にわざわざ個別に言葉を遺したいと思える人がいないという事実に少し驚いた。
まあでも、つまりは誰にも、最期の言葉という重いモノを託さずに逝けるという事なので、恐らくそれはそれで良いのだろう。
死ぬ事に理由は無い、とは分かったが、死ぬ事に対して、自分なりの意味はある。
自殺は、日常からの脱出手段だ。考えるだけで、開放的な気分になる。誰も知らないどこかへ旅立つような気持ちだ。そんな訳で、自殺を考えるとワクワクすらしてしまう。仕事をしていても、自分はもうすぐここから非日常へ飛び出すんだ、と考え出して、楽しくなってくる。死ぬ前に一回、プロに手相を見て貰いたいとも考えている。自殺を考える人間の手には、やっぱり何かそれらしい線が刻まれるのだろうか？
いつも職場の窓から見える澄んだ青空が綺麗で、その青さを見つめていると、精神だけは既にあちら側へ行っているような感覚に陥る。
自分には明るい未来が待っている。とても、晴れやかな気持ちだ。この貴重な気持ちを後2ヶ月保ったまま旅立つ事が、直近の目標だ。
