思えばきみがまだそばにいたころでさえ、わたしはもう既にこの人をのがしてしまったのかな、と、常々思っていた。
本当にのがしてしまった今、当時のひりひりした焦燥なんてものはなく、ただわたしたちはきっともうあの頃のままではないという事実だけが、地に落ちる影みたいにわたしの足先から黒く伸びている。静かに伸びている。
だけ。
どんどん過去になっていく。ただ近くにいないというだけで、きみの優しさも生真面目さも言葉も行動も、そのすべての記憶が着々と薄れていくこと、切実さを失うこの心情、全部が情けなく思えてくる。
わたしを見ていてくれてありがとう、愛してくれてありがとう。そんなきみの気持ちに気付いていたのに、なにも汲めず言い出せずのままそばにいられなくなってしまって、わたしだって悲しかったよ。ごめんね、って、言うべきなのかな。
きみの存在をわたしの中で過去にできそうもなくて困ってるよ。きみはどうですか。
元気に、してますか。